プーチン侵攻の背景に「大ロシア再興」という妄想 側近は愛国的な歴史修正主義者

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 暴走を続けるプーチンは一体何を考えているのか。ロシアの外交・安全保障戦略に詳しい笹川平和財団主任研究員の畔蒜泰助氏に、プーチンの思想的背景について解説してもらった。

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 プーチンとは何者なのかを考えるにあたって、彼を複数の「ペルソナ(人格)」で捉えるやり方があります。

 私が監訳した『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』(新潮社)は、まさにそうした方法で彼を分析しているのですが、今一番注目すべきは、「歴史家」の顔です。

 そもそも、彼は2000年代から徐々に“過去のロシア”との結びつきを強めてきました。

 象徴的なエピソードを一つ話すと、初代ロシア皇帝であるピョートル大帝をはじめ、歴代皇帝の胸像や肖像画を大統領執務室の控えの間に飾り出したのです。南下政策を推進し、ウクライナの大部分を併合したエカテリーナ2世の銅像も、そうしたコレクションのうちの一つに含まれています。

 また、ソ連時代は野ざらしだったロシア正教の教会も急速に修復、再建されるようになりました。

プーチンが歴史に傾倒するようになったきっかけ

 もっとも近年、大統領が表舞台で「歴史」により深く傾注するようになったのは、欧州議会が19年9月にある決議を可決したことが大きなきっかけです。

 それによって、欧州は第2次世界大戦の起点を1939年9月のナチス・ドイツによる「ポーランド侵攻」ではなく、その前月に締結された「独ソ不可侵条約」だと解釈を変えたのです。この決議によって、ソ連は約2700万人もの犠牲を払ってナチス・ドイツを打倒し、欧州を救ったという歴史観が真っ向から否定されたわけです。

 無論、プーチンはこの歴史認識の変更に強く反発しました。彼は20年6月、アメリカの政治外交誌に「第2次世界大戦75年の本当の教訓」と題して、署名論文を掲載し、欧州議会の決議に正面切って異議を唱えたのです。さらに、昨年7月には大戦中のソ連とナチス・ドイツを同一視することを禁じる法律も発効。その同じ月には「ロシア人とウクライナ人との歴史的な一体性」なる論文も発表しています。

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