プーチン侵攻の背景に「大ロシア再興」という妄想 側近は愛国的な歴史修正主義者
歴史観を支える側近
そうした歴史観を支えている側近の一人が、ウラジーミル・メディンスキーです。この人物は、プーチンが大統領に復帰した12年5月から文化大臣の座を占め、現在は大統領補佐官の任にあります。ウクライナ出身の歴史学者で作家という横顔も持っています。
過去の著作では北方四島の占領を正当化する主張も行っており、愛国的な歴史修正主義のイデオローグ(理論的指導者)です。「歴史啓蒙に関する省庁間委員会」のトップでもあります。
見逃せないのは、メディンスキーが、停戦交渉の代表を務めていることです。どれだけプーチンが今回の件で歴史問題を重視しているかが分かるでしょう。大統領にとって、今回の侵攻は単なる戦争ではありません。“歴史戦”“思想戦”でもあるのです。
もはや、ロシア経済を立て直した「自由経済主義者」という在りし日の面持ちは、影も形もないと言わざるをえないでしょう。
「ロシアの歴史を共有する地域はロシア」という極論
むしろ、今日のプーチンの言動を理解するためには「ルースキー・ミール(ロシアの世界)」という独特の概念を知る必要があると、私は考えています。ロシア語を話す人々はロシア国内にとどまらず、彼らとのネットワークを重視し、必要があれば守らなければならないという世界観です。
彼と側近らはこの考えをさらに発展させ、最近ではロシア語の話者だけではなく、たんに大ロシアの歴史を共有する人間が暮らす地域までもが“ロシア”に含まれると主張しています。
プーチン大統領が戦争を始めるにあたって「ルースキー・ミール」という世界観が念頭にあったのは間違いないでしょう。それは、彼が東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンシク州)の支配にもこだわっている点からも明らかです。そこはかつて、帝政ロシアが治めていた地域ですから。
大統領の行動は今後も第2次世界大戦と「ルースキー・ミール」という歴史観に縛られるでしょう。その意味では、毎年5月9日に軍事パレードが行われる対独戦勝記念日は重要な意味を持ってきます。この日までにドンバス地方に占領地域を広げ、勝利宣言を狙う。逆に戦況が思う通りに進まない場合、その日に間に合わせるために、化学兵器が使用されるシナリオも排除するべきではないでしょう。
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