日本のホスピタリティーをチャットボットに埋め込んで――綱川明美(ビースポーク社長)【佐藤優の頂上対決】

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デジタル市役所を作る

佐藤 実際にいまは「災害対応」の仕事も請け負われていますね。

綱川 地方自治体の次は、政府の観光庁からでした。新聞で見ました、明日来てもらえますか、と連絡をいただきました。そこで観光案内ではなく、緊急時の対応をチャットボットでできないかと相談されました。

佐藤 確かに応用できそうですね。

綱川 実績もないですし、入札の書類を書けるような人もいない。内容もちょっと責任が重大すぎるのではと躊躇したんです。ただ縁があって順調に話が進み、導入に至りました。その次はワシントンDCや国連からも連絡が来て、このままどんどん広がると思って、シリコンバレーだけでなくロンドンにも拠点設立の準備をしていたら、そこにコロナです。

佐藤 観光需要が消滅した。

綱川 ホテルから「閉鎖するので解約したい」「支払いができない」という連絡が次々に入りました。焦り始めた頃に、国内外の行政機関から「コロナ対策に使えませんか」と連絡が来るようになりました。観光地や空港で提供していた混雑緩和の機能を転用し、ソーシャルディスタンスを作り出すツールとしての活用を相談されたのです。競合他社が我々のコピー商品を低価格で叩き売りし始めたのがこの頃です。このままで大丈夫かなと思っていたら、今度は行政のDXをやりましょう、市役所の業務自動化をしてほしいという話がきたんです。当初は「日本語はやっていない」とお断りしていましたが、あまりにも相談件数が多く、お手伝いできるのであれば腹をくくってやるべきだと思い、いまに至ります。本当に行き当たりばったりですよね。

佐藤 でも、まさに世の中のニーズに応えて、事業が広がってきた感じです。

綱川 いまは「行かなくていい市役所」を絶対に作りたいですね。昨年9月に出産しまして、帝王切開で歩くのも大変な暮らしを3週間しました。オーストリア人のパートナーに出生届の提出を依頼したら、やり直しになってしまいました。その後、退院日に提出に行くと、区役所側で何かの確認に時間がかかり、最終的に1時間ほど待つことになりました。

佐藤 それに限らず役所のデジタル化は非常にニーズが高いですね。

綱川 その後、保育園が空いておらず待機児童になった時に、代替サービスについて区役所に尋ねたことがあります。区役所のウェブサイトは情報量が多く、自分が求めている情報にたどり着けなかったり、利用条件の説明が難解で、何が自分に使えるサービスなのかわからなかった。窓口でも、対応する方次第で、回答が異なったりします。育児関連の支援メニューは、特に女性の就労率を上げるためにも重要だと感じています。子供を預けられなければ、仕事は諦めて辞めることになります。だからいまは、役所の自動化、特に必要な情報にどこからでもいつでもアクセスできるような環境を作ることを一番やりたい。これは生産性の向上という問題の解決にも確実につながっていきますから。

綱川明美(つながわあけみ)
ビースポーク社長。1987年神奈川県生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校国際開発学部卒。2010年豪系投資銀行マッコーリーキャピタルに入社、米系投資信託フィデリティ投信などを経て、15年ビースポーク設立。多言語自動会話のチャットボット「Bebot」を開発、事業展開する。21年政府デジタル臨時行政調査会のメンバーに。

週刊新潮 2022年4月7日号掲載

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