「カムカム」は朝ドラ史上「ベスト3」の傑作 世代間の“継承”と今の時代に必要な“寛容さ”

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 同じ朝ドラを2回書くのは初めて。個人的には歴代ベスト3に入った「カムカムエヴリバディ」である。

 3世代・100年の物語も終盤、ヒロインは孫のひなた(川栄李奈)にバトンタッチ。安子(上白石萌音)・るい(深津絵里)の、勤勉で健気で一途な姿に胸を締め付けられてきた者としては、母娘の物語をしっとり連綿と紡ぐのだろうと思い込んでいた。ところが、ひなたは驚くほど怠惰、継続する力も意志も弱いダメっ娘で。ラジオ英語講座も続かず、先祖代々が継承してきた、伝統のあんこに見向きもせず。

 ただし、熱烈な時代劇ファン。ひなたはひなたで新たな道を歩む。斬られ役では無二の大部屋俳優・伴虚無蔵(ばんきょむぞう)(松重豊)に見込まれ就職、大部屋俳優の新人・文四郎(本郷奏多)と恋に落ちる。

 この設定も決してご都合主義ではないし、時代劇の衰退と憂えをコミカルかつシニカルに描いたところがツボだった。毒舌の文四郎が「時代劇はバカしか喜ばないマンネリ」と言い放ったのは、NHKならではの民放局時代劇への揶揄か。でも、NHKはNHKで、人気はあるが殺陣が酷い役者を多く使ってるけどね!

 それはさておき、個人的には役者を諦めた文四郎に思いを重ねる。我が夫も役者を辞めて家業を継いだクチなので。芝居が好きなだけでは生きていけない現実を、朝ドラで脳内再生させられるとは思わなかったよ。

 この作品、女3世代を描く主軸はあるが、他に登場する親子の「生業と気質の継承」も多数織り交ぜて描いていた。荒物屋のケチベエ・ケチエモン・ケチノジョウ、茶道家のベリーと一恵、時代劇スターのモモケンに岡山のジャズ喫茶のマスター……親子ではないが、野球と失恋までもが親族間で紡がれるとは! 随所細部に、継承とデジャヴの妙。

 親子または世代間でバトンをつなぐ。これを単純に描けば綺麗事になりがち。もしくは怨念や因縁が過多の因襲的な物語になってしまう。そうならなかったのは、脚本の緻密さと奥深さのおかげ。すべての役者が生きる作品になったと思う。

 継承の物語にひどく感動しているが、私自身は継承と無縁。継承しない人や矜持のある人にも思いを寄せた。大阪のクリーニング屋夫婦(村田雄浩・濱田マリ)は子を持たず、生業を一代限りと決めていた。女優に恋したが身を引いた榊原(平埜生成)、女優にNOと言えない監督(土平ドンペイ)、近所の酒屋(おいでやす小田)。皆仕事に矜持と責任を持っていることが伝わる。

 また、ちょっと厄介な人も好み。飄々と働かない父(オダギリジョー)や、理不尽な夫と離婚した割に、酔って理不尽にくだを巻く女優(安達祐実)にも心掴まれた。ダンスで死んだ算太(濱田岳)を始め、この作品にはちょっとダメだが愛おしい人が大勢登場。今の世の中に必要な「寛容」がある。

 ひなたも初めは不甲斐なく飽き性だったが、終盤にきて、回転焼きも焼けるようになり、コツコツ学んで英会話も会得。あんこと英語と夏祭りで繋がる3世代の物語、大団円が楽しみだ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年4月7日号掲載

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