ウクライナ「15歳ゴルフ少年」の悲痛な叫び「クラブハウスがロシア軍によって占領された」

スポーツ

  • ブックマーク

Advertisement

「ある朝、突然、戦争が始まった」

 ウクライナにいる15歳のゴルフ少年の悲痛な叫びが、米ゴルフダイジェスト誌で報じられた。

 この少年は6歳からゴルフを始め、ウクライナ国内のジュニア・タイトルを次々に獲得。昨年は全米ジュニアにも出場した。

 彼は今年2月には米国へ遠征し、フロリダ州で開催されたオレンジボウルなど米ジュニアゴルフ界のビッグ大会に次々に参加、何度かは上位入りも果たした。そして「米国遠征の次は欧州遠征だ」と意気込み、母国ウクライナに帰国した矢先、ロシアによる侵攻が開始されたのだ。

「ある朝、突然、戦争が始まったことを、隣街に出かけていた父からの電話で知った。すぐに母と一緒にスーパーに走ったけど、食糧を買い込む人々ですでに長蛇の列ができていた。銀行に行って現金を引き出そうとしたけど、やっぱり長蛇の列。結局、母と僕は何一つできないまま家に戻った」

 この少年はウクライナ国内にある5つのゴルフクラブのうちの1つに所属しているが、彼はホームコースの「今」の姿に愕然とした。

「僕のホームコースは、クラブハウスがロシア軍によって占領され、コースはめちゃめちゃにされている……」

PGAツアーでは支援金を募る活動

 つい数日前までは当たり前のようにゴルフクラブを握り、未来を夢見て球を打つことができていたのに、その「当たり前」は突然、失われたのだ。

 彼にとって日常だったゴルフがいきなり奪い取られた。ゴルフ場は占拠され、破壊され、ウクライナのゴルファーたちが四半世紀にわたって一生懸命に築き上げてきた「ウクライナのゴルフ」も失われようとしている。

 そして今、この少年も、周囲の人々も、生きること、生き伸びることに必死だ。3月20日、少年はInstagramに学業とスポーツの夢を追いかけるために、家族を残してウクライナを離れたと書き込んでいた。

「何かを追いかけるためには犠牲もやむを得ない。生まれ育った家と街、ゴルフコースから離れ、家族を残して僕は旅立った」

 少年の後ろ髪を引かれる思い、それを必死に断ち切ろうとしている思いが伝わってきた。

 PGAツアーでは、スペイン出身のジョン・ラームが中心となってウクライナへの支援金を募る活動が始まっている。冒頭で記したR&Aの「ウクライナ・ゴルフ連盟を全力でサポートする」の意味は、失われかけている彼の地のゴルフと人々を、なんとかして守りたい、助けたいということである。

 日本のゴルフ界にできることはないか。私たちゴルファーにできることはないか。私にもできることはないか――。そんな自問自答を重ねつつ、この少年やウクライナの人々が再びゴルフを楽しめる日々の到来を信じながら、戦火が治まることを祈りたい。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。