ウクライナ危機で「ユニクロ」はなぜ失敗した? 危機管理の専門家が解説
「罪の変化」
もうひとつ大事なのは、制裁ムードに流され、横並びで“撤退”など厳しい措置を打ち出さないことです。企業が自らのスタンスを明らかにするのは重要ですが、単に“ロシア憎し”での対応と捉えられると、修復不可能な亀裂が生じてしまいます。必ずしもプーチン大統領の方針に賛成しているわけではないロシアの一般国民に敵意を抱かせるのは得策ではありません。日本企業への悪感情が残れば、最悪の場合、事態が収束してもジャパンバッシングが起きて“撤退”に追い込まれるリスクがあります。
それを避けるためにも、企業側は以下のようなスタンスを貫かなければなりません。プーチン政権の振る舞いは看過できないので“やむをえず”緊急的な措置を講じるのだ、と。ウクライナ侵攻に異議を唱えつつ、ロシア国民を納得させる努力が不可欠なのです。
加えて、初期対応で危機管理上の大きなミスを犯した代表格がユニクロです。
同社の柳井正社長は、「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利を持っている」と述べ、H&MやZARAといった同業他社がロシアでの営業を停止しても、店舗営業を継続する構えでした。しかし、非難の声が相次いだことから一転して事業の一時停止に踏み切ります。
ユニクロの失敗は、危機管理において極めて重要な「罪の変化」を見落としていたことにあります。
燃料価格の高騰は避けられない
ロシアは日本にとって、液化天然ガス(LNG)などのエネルギー資源を輸入し、自動車をはじめとする商品を輸出する貿易相手国です。ただ、これまで西側諸国から注目されてこなかったビジネス上の密接な関係が、突如として問題視されるようになった。その点を敏感に察知する必要がありました。しかも、ユニクロは批判を浴びて前言撤回しています。企業が一度決めた方針を翻すのは“展開の予測”ができていないことの証左で、いつまた掌返しをするか分からないと思われてしまう。そうなれば、顧客はもちろん、ロシア人を含めたスタッフとの信頼関係まで崩壊しかねません。
現時点で日本政府は、ロシア産燃料の禁輸措置に踏み込んでいません。とはいえ、燃料価格の高騰が避けられないのは事実。JALやANAといった航空会社には燃料費が重く圧し掛かります。ロシア領空を迂回する場合、JALの「羽田-ロンドン線」は往復で7時間以上、飛行時間が延びると報じられており、さらなる負担増は免れません。
今後、航空運賃が値上げされれば国外だけでなく国内旅行にも影響が及び、旅行代理店も打撃を被ります。当然ながら、ツアーに組み込まれるホテルや旅館、飲食店はグレードダウンされ、さまざまな企業が苦境にあえぐ危険性があるわけです。
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