【カムカム】安子・るい・ひなたを結び付けた「カムカム英語」平川唯一さんの功績

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

誰が全体像をるいに語るのか

 一方、岡山に帰ったるいが、一番知りたかったのは、安子がどうして自分を置いて渡米したかである。

 しかし、安子の真実は本人とGHQ中尉のロバート・ローズウッド(村雨辰剛、33)と視聴者しか知らないのである。だから、るいの誤解にずっとやきもきさせられる。本当に計算され尽くした脚本である。

 渡米前の安子は周囲から連鎖的に傷つけられ、居場所がなくなっていった。追い詰めた者は複数いるので、誰一人として全体像を掴めていない。

 安子をある程度、理解していた勇(青年期までは村上虹郎)は第38話でこうクビを捻っている。1962年のことだ。

「安子がるいを置いてアメリカに行くなんて、余程のことがあったはずじゃ」(第38話)

 そう言う勇も無意識のうちに安子を追い詰めた1人なのである。兄である稔の戦死後、安子に結婚を申し込んだ。稔の父・千吉(段田安則、65)も2人の再婚を勧めた。

 だが、ひなたの道を歩くと決めていた安子にとって、恋愛感情のない相手との押しつけに近い結婚は苦痛だったに違いない。「自分が納得して歩ける道」ではない。

 千吉の場合、るいを愛しすぎて、やはり安子を苦しめた。安子がるいと2人で雉真家を出ることを頑として許さなかった。

「雉真繊維の力がなければ(るいの額の傷は)治してやれん」(第37話)

 るいの傷の責任を痛感していた安子にとって、胸をえぐられるような言葉だったはずだ。

 さらに信じていた肉親の算太が兄妹の独立資金を持ち逃げ。トドメを刺したのがるいなのは説明するまでもない。額の傷を見せながら「I hate(憎む) you」(第38話)。

 ここまで辛苦が重なったら、誰だって冷静ではいられないはず。安子は正気を失い、雨中をふらふらと彷徨った。いま振り返っても哀れでならない。

 安子の渡米の真相とその後は誰がるいに語るのか。3月7日付の本稿で指摘した通り、城田優(36)が担当する語りの人物とビリー(幼少期は幸本澄樹、9)が同一人物なのはもう疑いようがないので、おそらくビリーだろう。

 ひなたは平川さんと出会ったことで、英語をマスターする。それによってビリーとの接点が生じるのではないか。2人が最初に会ったのは1976年の条映映画村だった。再会の場も条映か――。

 このドラマのキャッチコピーの1つは「これは、すべての『私』の物語。」。安子とるいの別離はショッキングだったものの、登場人物はみんな市井の人。朝ドラにありがちな偉人伝ではない。

「カムカム英語」の題材も市井の人たちの暮らし。ドラマと英語講座の「カムカム」の共通項はここにある。ドラマと英語講座がどちらも支持を得た一因でもあるだろう。

 また、散り散りになっていたるい、算太、勇らが再び結びついた。「カムカムエヴリバディ(みんな、おいで)」とは絶妙のタイトルだった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニ ッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送 界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年 の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。