「親米大統領」誕生でも韓国は「離米従中」 李朝末期にどんどん似てきた

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安倍元首相と対照的

 2021年2月10日、C・ヘーゲル(Chuck Hagel)元国防長官らがバイデン(Joe Biden)政権に向けた報告書「Preventing Nuclear Proliferation and Reassuring America’s Allies」を発表した。

 この報告書は「米国は核企画グループを作り豪州、日本、韓国を米国の核戦力に関する政策論議に参加させよ」と提言した。「dual key control mechanism(二重鍵)」などの単語は使っていないが、「特定の核政策についてのプラットフォームを提供すべきである」とあるので、「引き金への関与」を指しているのは明らかだ。
・The United States should create an Asian Nuclear Planning Group, bringing Australia, Japan, and South Korea into the US nuclear planning processes and providing a platform for these allies to discuss specific policies associated with US nuclear forces.

 安倍元首相の発言もこの報告書が背景にあるのかもしれない。核共有を唱えてきた韓国の保守も大歓迎だった。というのに、肝心の韓国の次期大統領が否定的な姿勢を打ち出したのである。

 北朝鮮には韓国の保守は強硬で、米国との足並みはそろうだろう。しかし、中国には左派と同様、恐ろしく低姿勢になることが多い。それどころか「中国と敵対させようとする米国」に反発する向きもある。

韓国の今の気分は反米

 2022年2月にロシアがウクライナを侵略した際、韓国で米韓同盟に対する不満の声があがった。中央日報のコラムニスト、ナム・ジョンホ氏は「ロシア制裁への異なる視点」(3月2日、日本語版)で「米国に従って対ロシア制裁に加われば国益を損ねる」と訴えた。

 対ロ輸出が打撃を受けるうえ、沿海州などでのロシアとの共同開発事業が白紙になるとの理由だ。さらに、ナム・ジョンホ氏は米国との同盟で韓国は損ばかり被ってきたと主張した。

・韓国は強大国間の衝突で大きな被害が生じても補償を受けられない過ちを繰り返してきた。THAAD(高高度防衛ミサイル)配備が代表的な事例であり、直接的な受恵者は在韓米軍だが、被害は韓国企業が受けた。それでも米国が限韓令の緩和を中国に要求したという話は聞かれなかった。2018年から始まった対中国半導体輸出規制で韓国企業に大きな被害があった時も同じだ。

 ナム・ジョンホ氏は対ロ制裁への参加による「被害」に関し、米国に補償を要求すべきと唱えたうえ、同盟解消まで匂わせた。

・韓米同盟も国益のために存在するものであり、それ自体が目的にはならない。いつも一方だけが犠牲になる同盟なら亀裂が生じるしかない。

 この記事からは「米韓同盟によって安全保障が担保されている」との意識はみじんもうかがえない。噴出したのは「韓中関係も平気で壊す、はた迷惑な米国」への不満である。

 中央日報は朝鮮日報ほど鮮明ではないものの、保守系紙に分類される。その新聞に、一人のコラムニストの意見とはいえ「米国の言いなりになるばかりの同盟なら見直そう」との主張が載ったのだ。 

 国力が増すに連れ、韓国人には「一人前になった我が国に、いつまでも兄貴風を吹かす米国」への不満が高まっている。大統領が保守に戻ろうと、韓国の「反米」気分に変わりはない。

「現状維持」は裏切り

 一方、米国では5年ぶりの保守政権への期待が高まる。米議会調査局(CRS)は2月24日、報告書「U.S.-South Korea Relation」の改訂版を発表。韓国の新政権の(1)対北朝鮮政策(2)対中政策(3)対北政策とも絡む人権政策――に米議会は注目すると書いた。要は、新政権は対中・対北で米国と足並みをそろえよ、と要求したのだ。

 当然、米国は新政権がQuadに参加することを強く希望している。もし、尹錫悦政権が参加しなければ、米国の目には「韓国が現状を維持した」とではなく「韓国が離米従中の度を深めた」と映るであろう。

 堂々とウクライナを侵略したロシアを中国は陰で支える。その中国を抑え込むには今まで以上に同盟国の結束を固めて見せる必要がある。そんな時に「現状維持の韓国」は、同盟を揺らす存在となる。相場観は大きく変わったのである。

 韓国が中国を敵とする覚悟を固めない間は、日韓関係も改善しないであろう。なぜなら保守であろうと左派であろうと韓国は、中国包囲網に参加できない言い訳として米国に「歴史問題で日本の謝罪が足りない」と訴える戦術をとってきたからだ。韓国にすれば、中国から睨まれないためには日本との関係を悪化させるしかないのだ。

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