「親米大統領」誕生でも韓国は「離米従中」 李朝末期にどんどん似てきた

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人口減少による衰退

 経済面でも韓国は危機を迎えた。人口減少による経済的衰退が現実になってきたのだ。人口は2020年に、働き手の中核である生産年齢人口(15-64歳)は2018年にピークアウトした。実際に働いている人と、働く意欲を持ちながら職が無い人を合計した経済活動人口は2023年にピークを迎えると韓国の雇用労働部は予想している。

 韓国の人口問題が深刻なのは、高齢化の速度が異様に早いことだ。OECDの「Fiscal Challenges and Inclusive Growth in Ageing Societies, OECD Economic Policy Paper」(2019年9月)によると、65歳以上の人口の20―64歳の人口に対する比率が2060年の韓国では88・68%に達する(10ページ、図表「G20における高齢者の比率の変化」参照)。

 G20中1位で日本の79・90%よりも高い。2015年段階では韓国が19・11%、日本が47・55%だったから、韓国の高齢化の速度がいかに早いかが分かる。ちなみに日本の生産年齢人口が頂点に達したのは1995年。1割減るのに20年かかった。韓国はピークの2018年から10年間で1割減ると予測されている。

 原因はもちろん出生率の低さにある。ことに文在寅政権下でその低下が際立った。合計特殊出生率は2017年の1・05から、たった4年後の2021年には0・81に落ちた。文在寅政権は人口がピークアウトする時期に国政を任されただけではない。将来の人口的な禍根も残した政権となった。

党争に明け暮れて滅んだ李朝

 2022年1月、韓国の不動産バブルに崩壊の兆しが見えた(「韓国バブルに崩壊の兆し 不動産が一斉に値下がりも国民は『まだ大丈夫』」)。

 韓国ではマンションが投機の対象だ。2年間、高騰を続けてきたマンション価格が2022年1月第5週、わずかだが下がったのだ。その後も3月第1週まで、じりじりと下げ続けている。

 金利上昇によるホットマネー流出などの短期要因だけが原因ではなさそうだ。不動産の実需要者である生産年齢人口の減少といった長期的な要因の可能性が高い。日本でも生産年齢人口の全人口に占める比率がピークアウトした1990年ごろにバブルがはぜた。

 韓国経済の「縮み」は内政にも大きな悪影響を与えるだろう。これまでなら左右いずれが政権をとっても、国民をなだめるためのバラマキが可能だった。しかし、経済が縮めばそうはいかない。小さくなるパイをどう切り分けるか、という分配政策が焦点になる。

 分配とは基本的に持てる者の資産を取り上げ、持たざる者に与える作業である。激しい抗争に陥った韓国の政界が、極めて難しい社会的合意を作り上げることができるのだろうか。

 李朝末期、経済力が衰えた王朝の内部では党争が吹き荒れた。そこに強力な軍事力を背景に、アジア侵略を狙う西洋諸国が押し寄せた。李朝は自ら守る力を持たず、どの国を頼りにするかで内紛が一層激化した。経済、内政、外交の三方からの逆風が巻き起こした混乱の中で519年続いたこの王朝は消滅し、朝鮮半島は日本の植民地に転落した。

 今もまた、大韓民国は経済的な衰退が始まり、内政は混乱する。外交の針路も定まらない。120年前の李朝末が再現すると心を痛める韓国人もいる。彼らのうち何人かは国外脱出を考えている。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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