鎌倉殿の13人 9話以降を楽しむために抑えておくべき史実を解説

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三谷氏が“原作”とする書によると…

 駆け足で物語を振り返りたい。始まりはスキャンダルの発覚だった。平安後期の1175年、伊豆に流されていた頼朝が八重と秘かに通じ、男児・千鶴丸(太田恵晴)をもうけていたことが、八重の父・伊東祐親(浅野和之)にバレる。

 祐親は頼朝を流罪にした平清盛(松平健)の家人である上、頼朝の監視役を命じられていたので、禁断の愛だった。祐親は「あの男だけは許さん」と、頼朝殺害を命じた。

 頼朝は魂胆があって八重に近づいた。伊豆国で随一の豪族である祐親を抱き込み、やがては平家を倒す腹積もりだった。八重は利用されていた。けれど、頼朝の目論見は大きくはずれてしまう。

 頼朝が冷酷で計算高い性格だったことは史書に残されている。脚本にユーモアが散りばめられ、憎めないキャラクターの大泉が演じているから気づきにくいが、この物語の頼朝も史書の通りなのだ。

 頼朝は作戦を変更し、北条家を取り込むことにする。うまい具合に義時の兄・宗時(片岡愛之助)のほうから近づいてきた。渡りに船だった。北条の館に匿われたことが端緒となり、2人の姉の政子(小池栄子)と結婚する。

 頼朝は義時には本心を口にした。

「私は北条の婿となり、北条を後ろ盾として、悲願を成就させる」(頼朝)

 頼朝にとっては北条家もやはり利用する対象だったのだ。ただし、今度はどっちもどっちだった。

 1180年、約6年におよぶ源平合戦が始まり、頼朝軍が石橋山の戦いで大庭景親(國村隼)軍に敗れると、宗時は義時に本音を明かす。第5話の終盤だった。

「平家とか源氏とか、そんなことどうでもいいんだ。オレはこの板東をオレたちだけのものにしたいんだ。西から来た奴らの顔色をうかがって暮らすのは、もう真っ平だ。板東武者の世をつくる。そして、そのテッペンに北条が立つ」(宗時)

 直後に宗時は祐親が放った刺客・善児(梶原善)に暗殺されたものの、この野心は北条家と頼朝側の行方を暗示していた。

 三谷氏が「これが原作のつもりで(脚本を)書いている」とする史書『吾妻鏡』によると、まず義時の父・時政(坂東彌十郎)が頼朝に反旗を翻す。理由は頼朝の愛妾・亀(江口のりこ)に関することだったから、やはり人間臭い。

 1182年、頼朝と亀の不倫を知った政子が、継母・りく(宮沢りえ)の兄・牧宗親(山崎一)に頼み、現在の逗子方面にあった亀の住み家を崩壊させる。火も付けたらしい。オイオイ、である。

 これに頼朝が憤怒。宗親を厳しく叱り、罰としてマゲを切ってしまった。その仕打ちに今度は時政が怒る。そもそも女婿である頼朝の浮気が原因だし、義兄が執拗なまでに責められたからだ。

 時政は頼朝と袂を分かち、地元の伊豆国に帰ってしまう。頼朝から請われるまで戻らなかった。

 一方、義時は頼朝の言いつけを愚直なまでに守り続ける。1192年に頼朝が鎌倉幕府の初代将軍になる前も後も。だが、1199年に頼朝が53歳で亡くなり、政子との間の長男・頼家(金子大地)が18歳で2代将軍となると、情勢がガラリと変わる。

 頼家は頼朝のような独裁体制を続けたかったものの、義時は政時やほかの有力御家人たちとともに「13人の合議制」を組織。この13人を通さないと土地紛争などの訴訟が頼家に届かないようにした。将軍の権限が狭められた。その後も義時は頼家の前に立ち塞がる――。

 この物語で最もワルは後白河法皇(西田敏行)だろう。権力を濫用し、武士たちに殺し合いをさせるのだから。頼朝ですら「日本一の大天狗」と評し、怖れた。

 2番目の悪党は頼朝ではないか。今後、血族も敵意のないものも次々と殺す。源平合戦で尽力してくれた恩人も忙殺するのだから、あきれるばかりである。

 3番目の悪党はひょっとすると義時か。三谷氏は義時について「ずるい部分もあって、ダークな男」と語っていたが、頼朝の死後はそんな面が徐々に鮮明になって来る。頼朝に似てくる。

 この物語の参考資料にもなっている史書『愚管抄』によると、義時は頼家の長男である一幡も殺害してしまう。後継ぎ問題が絡んでいたとはいえ、一幡はまだ6歳だった。

 どうして義時は甥の頼家に冷たかったのか。『吾妻鏡』には頼家のミスや愚行の数々が記されている。暗君だったのも理由の1つだろう。対象的に義時の長男で御成敗式目を制定した泰時(坂口健太郎)の記述部分を見ると、評価が極めて高い。

 どの史書でも判然としないのが泰時の母親だ。阿波局という女性なのだが、家系や生年、立場は不明。八重であるという説もある。この物語がどんな説を採用するのか興味深い。

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