「プーチン失脚のシナリオを考えなければならない…」外務省幹部が語るウクライナ侵攻の落としどころ

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「プーチンが失脚するシナリオを考えなければならない」

 ある日本政府高官は、ロシアのプーチン大統領を失脚まで追い込む決意を示しました。北方領土問題を抱えて、これまでプーチン大統領との関係維持に腐心してきた日本政府ですが、核兵器の使用をちらつかせ、世界の秩序を崩壊させようとする独裁者を許さない方向に大きく舵を切りました。日本政府は現状をどう把握し、何をしようとしているのか。裏側を取材しました。【青山 和弘/政治ジャーナリスト】

停戦からプーチン政権崩壊のシナリオ

 ロシア情報筋は当初、侵攻が始まれば「ウクライナのゼレンスキー政権は、アフガニスタンのガニ政権のようにすぐに崩壊するだろう」と楽観的な見立てを語っていました。しかし欧米の軍事支援を受けたウクライナ軍は善戦し、想定通りには進んでいません。ただ外務省は「ロシア軍の士気は高くはないが、圧倒的な戦力によってキエフは近々制圧される可能性が高い」と分析しています。

 この段階での最大の焦点は、停戦合意に持ち込めるかです。外務省幹部は次のような落としどころを語ります。

「東部2州に外交権など高いレベルの自治を認めるとした2015年の『ミンスク合意』に戻ることを約束する。そしてウクライナはEUには加わるが、当面NATOには加盟せず軍事的に中立であることを一旦保障する。その上でSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除とロシア中央銀行への制裁というロシア経済包囲網を続けて経済を徹底的に締め上げ、プーチン政権の内部崩壊を待つ」

 ロシアに一定の譲歩をして停戦した後、時間をかけて政権崩壊を誘うというシナリオです。ただ問題はプーチン大統領を失脚に追い込む勢力が、具体的にロシア内に存在するのかです。激しい経済的困窮に襲われる中で、ロシア軍の中から出てくるのか、民主化勢力から出てくるのか。プーチン大統領が強固な独裁政権を築いていただけに成否は未知数です。

ゲリラ戦が続く可能性

 こうした中、情勢を左右するのがゼレンスキー大統領の身柄です。当初日ロ外交筋は「ロシアはゼレンスキーを殺しもしないし、捕まえて裁判にかけたくもない。国際社会から批判が強まるのを嫌がっている」と語っていました。プーチン大統領はウクライナ国内でのクーデターを促す発言を繰り返していました。しかし、戦闘の長期化を受けて戦闘で命を落としたり、もしくは殺害されたりする危険性も出てきています。

 日本政府内ではゼレンスキー大統領がキエフ攻防戦の最終局面でキエフから脱出し、ウクライナ西部で欧米の支援を受けながらゲリラ戦に転じる可能性も語られています。外務省関係者は、停戦合意が結ばれずゲリラ戦に突入すれば「長い戦いを覚悟しなければならない」と話しています。その場合は双方に多くの犠牲者を生み、さらに悲惨な状況になるでしょう。

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