もっとも酷評されたのは上野樹里主演「江」…大河ドラマ「時代考証」とSNSの関係

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放送されるとすぐにSNS上に批判、称賛が

 お気づきの方もいると思うが、こうした時代考証的な批判をされるようになったのは、主に21世紀になってからなのだ。これは、やはりSNSなど個人発信のメディアの発達が背景にあると思われる。それまでにも、「登場人物の雰囲気や行動が時代にあっていない」といった批判がないわけではなかったが、重箱の隅をつつくような指摘が繰り返され、拡散されるようになったのは、やはりツイッターなどのSNSが浸透したことと無縁ではなかろう。

 現在、大河ドラマが放送されると、すぐにSNS上に批判、あるいは称賛の声が上がってくる。歴史に詳しい市井の視聴者は、ドラマの内容に不自然な点や、時代にそぐわない表現を見つけると、とたんに指摘合戦が始まる。最近は、メディアに流された情報の真偽を調べては間違いを指摘する「〇〇警察」といった呼び名も流行っているが、まさに警察の捜査の如く、大河ドラマは丸裸にされてしまうのだ。

ドラマ制作の裏側と歴史の解説

 一方で、平成28年(2016)の大河ドラマ「真田丸」(主演・堺雅人)以来、顕著になった傾向だと思われるが、ドラマ放送のリアルタイム、あるいはその直後に、歴史の専門家がSNS上でドラマについて解説をしてくれるというパターンも生まれた。とくに大河ドラマの時代考証、あるいはその補佐と位置付けられている「資料提供」としてドラマ制作にかかわっている専門家が、「あの場面ではこういう史料解釈をした」「あの場面は研究者によって解釈が異なるので、こういう設定にした」といった、いわばドラマ制作の裏側を紹介しつつ、歴史の解説をするという、歴史好き&大河ドラマ好きにはたまらなく親切な風習(?)も誕生した。

 こうした専門家による解説は、もちろん「あそこが史実と違う」「なんでこういう設定にしたのか」という突っ込みを回避するためのエクスキューズとしての側面もあると思う。一方で、懇切丁寧な副読本を読んだかのような満足も与えてくれるので、これを楽しみにしている視聴者もかなりいるようだ。

 歴史を描くドラマだとしても、もちろんすべて史実通りに描かなければならないという法があるわけではないし、それは実際には不可能なことでもある。ドラマはあくまでも娯楽作品であって、歴史の勉強のためにあるわけではない。しかし、実在の人物や事件を扱うのならば、歴史に対する敬意をもって史実を尊重すべきで、可能な限り史実を改変して欲しくないという意見にも、一定の説得力はある。

 専門家によるSNSでの解説は、ドラマには織り込めなかった、物語の演出と史実との葛藤——お話を面白くするための作為をどこまでやっていいかという苦心——を、視聴者にも知ってもらう良い機会になっているのかもしれない。

安田清人
1968年、福島生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊「歴史読本」(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集、執筆、監修などを手掛けている。

デイリー新潮編集部

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