もっとも酷評されたのは上野樹里主演「江」…大河ドラマ「時代考証」とSNSの関係

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はじめて登場したのは第5作の「三姉妹」

 NHK大河ドラマは、昭和38(1963)年に第1作「花の生涯」が放送開始。現在、放送中の「鎌倉殿の13人」が61作目となる。近年、その大河ドラマの時代考証」について話題になることが少なくない。史実との違いやリアリティの欠如を指摘し、時代考証がなっていないのではないか、との批判がメディアで語られるのをしばしば目にする。【安田清人/歴史書籍編集者】

 時代考証とは、歴史を描く物語において、史実との齟齬や描かれる時代背景とのズレを指摘し、物語にリアリティを持たせる行為、およびその役割のことで、おもに歴史研究者がその役割を担う。大河ドラマでは、第5作目の「三姉妹」ではじめてスタッフ・クレジットに時代考証が記されるようになった。その後、時代考証、あるいは監修として、大学などの研究機関に所属する歴史学者や、時代考証を専門とする歴史家の名前が記されるようになり、近年では時代考証の細分化が進んで、風俗考証、建築考証、衣装考証といった個別の「考証」も登場している。

 時代考証の仕事は大雑把にまとめると、次のようになる。まずシナリオのチェック。歴史上の出来事や実在の人物の行動や考えなどが史実に反していないかどうかを洗い出し、さらにはセリフや所作、あるいはナレーションにいたるまで、時代にそぐわない表現があれば訂正する。そして撮影に入ってからも、撮影の現場から出される疑問や質問に答えるのも、時代考証の役割となる。大河ドラマにおける時代考証とは、歴史を映像表現として描くための「お墨付き」を与える作業と言えるだろう。

「城が燃えていないと落城がわからない」

 とはいえ、ドラマ作りの主体となり、その最終的な責任を負うのは脚本、演出といったドラマ作りのプロであることは、現代劇のドラマと変わらない。したがって、映像表現や物語としての完成度や「おもしろさ」を追求するためには、時代考証を無視して(見なかったことにして)作られる局面もある。

 数々の作品で時代考証を担当してきた静岡大学名誉教授の小和田哲男氏は、かつて「江~姫たちの戦国~」(主演・上野樹里、2011年放送)の時代考証にあたった時に、こうした「ドラマ演出の壁」にぶち当たった。物語の主人公は、浅井長政とお市の方の三女である江(お江与)だが、長政の居城・小谷城が信長に攻められて落城する場面で、城は炎に包まれるという脚本になっていた。しかし、最近の研究では、小谷城は実際には燃えていなかったことが判明している。

 小和田氏はそう指摘したが、番組スタッフは、「城が燃えていないと落城がひと目で分からない」として、とうとう城を燃やしてしまった。小和田氏はドラマを見た仲間の研究者から批判を受けたそうだが、これは時代考証の責任とは言えないだろう。

「江」という作品は、もっと甚だしく史実を書き換える設定が目白押しで、歴史通や大河ドラマファンからも厳しい批判が寄せられた。織田信長が家臣の明智光秀に殺害された本能寺の変を描く回では、どこからか主人公の江が現れて明智光秀に説教をしたり、本能寺の変に巻き込まれた徳川家康が命からがら脱出する伊賀越えと呼ばれる逃避行に、なぜか江も同行したりするという驚きの場面も描かれた。なにしろこの時点の江はまだ9歳。しかも、それ演じるのは子役ではなく当時24歳の上野樹里だったのだ。歴史的に有名な事件に主人公を絡ませる(絡んでいたことにする)演出はよくあることだが、それにしても強引すぎるだろうという批判が少なくなかった。

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