もっとも酷評されたのは上野樹里主演「江」…大河ドラマ「時代考証」とSNSの関係

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龍馬と近藤は親しい友人だったかも

 平成16年(2004)に放送された「新選組!」(主演・香取慎吾)は、主人公の近藤勇が、実は江戸にいたころから坂本龍馬と親しい友人だったという設定だった。これはもちろんフィクションだが、新聞、雑誌などのメディアでは「史実と違う」という記事が出回り、「新選組!」は史実をないがしろにするデタラメなドラマだというイメージがついてしまった。

 新選組は、幕府が浪士を集めて作った特殊部隊である。その母体となった浪士組の結成に当たり、幕府は江戸の剣術道場などで名を挙げていた志士たちをリストアップし、浪士組への参加を募った。そのリストには、平野国臣や真木和泉、久坂玄瑞といった尊王攘夷派の志士たちとならび、坂本龍馬の名前も挙がっていた。この事実を指摘したのは、「新選組!」の時代考証に「資料提供」という形で参加した歴史学者の三野行徳氏だった。結果的に、龍馬は参加を見送ったが、近藤は浪士組に参加して新選組を結成するに至った。つまり、二人が同僚になっていた可能性はあったわけだ。そもそもこの二人は、剣術で名をあげて尊王攘夷の熱に浮かれる幕末の時代を生きた似た者同士であり、彼らが友人だったという設定は、けっして突拍子もないデタラメなどではなかった。

 従来、龍馬と近藤は「好敵手」として扱われてきた。だから友人だったとする設定に違和感が持たれ、「時代考証がなってない」とされたわけだが、友人だった可能性もあるのならば、それは物語の演出上、許される範囲であり、史実の改変とまで批判されたのは、いささか気の毒な話だった。

現在の研究ではほぼ全面的に否定

 平成8年(1996)の大河「秀吉」(主演・竹中直人)では、第一回の冒頭、少年時代の秀吉(木下藤吉郎)が、三河の矢作川に架かる橋の上で、蜂須賀小六と出会うという場面が脚本にあった。ところが、この時代、すなわち16世紀には、矢作川にはまだ橋がかかっていなかったことが、近年の研究で明らかになっていた。この作品も、時代考証を担当したのは小和田氏で、もちろん小和田氏はそれを指摘した。このときは、番組スタッフはこの指摘を受けて「橋」を描くのはとりやめとなった。

 一方、秀吉の出世物語のエポックとなる墨俣一夜城の場面では、逆のパターンもあった。織田信長が美濃攻めに苦心していた折り、まだ小身の秀吉が墨俣の地に敵の目を盗んで一夜にして城を築き、美濃攻略に貢献したという、お馴染みの話だ。しかし、この「一夜城」の存在は、現在の研究ではほぼ全面的に否定され、秀吉の前半生をドラマチックに描くためのフィクションだと考えられているのだ。

 ところが、この一夜城エピを描く第6回の脚本は、すでにタイトルが「墨俣一夜城」となっていたという(放送時には「一夜城」)。秀吉の「一夜城話」は人口に膾炙した物語であり、番組スタッフも脚本家も、このエピソードを抜きに秀吉の人生を描くことなど思いもよらなかったのだろう。その脚本を頭から否定してしまったら、一から書き直しということになるが、スケジュール的に不可能だ。小和田氏は、せめて墨俣城を、柵や井楼が立つ程度の砦のような城にしてくれるよう頼んだ。高くそびえる石垣に天守が載るような立派な城ができるのは、もう少し後の時代だからだ。

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