世界初! 四国で始まった線路と道路を走る“二刀流車両” 乗ってわかったDMVの注目点と課題

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 第3セクターの阿佐海岸鉄道は1992年3月26日に阿佐東線(あさとうせん)海部―甲浦間が開業し、1両の気動車が“地元の足”という重責を担っていた。開業30周年が近づいた2021年12月25日、世界初となるDMVの運行を阿波海南文化村―道の駅宍喰温泉・海の駅とろむ間で開始。地元客のほか、観光客も取り込もうと沿線が一体となって盛り上げている。導入までの歴史、DMV車両の概要、注目点などを取り上げる。【岸田法眼/レイルウェイ・ライター】

DMVとは

 DMVは「Dual Mode Vehicle(道路と線路を走行可能な車両〔バス〕)」の略で、JR北海道が2002年10月から開発に乗り出した。2004年1月に日産自動車のシビリアン(マイクロバス)をDMV化改造した試験車DMV901が登場すると、6月28日から札沼線石狩月形―晩生内(おそきない)間で走行試験が行なわれた。

 2005年9月にプロトタイプと位置づけたDMV911・912が登場。引き続き走行試験を実施し、2007年4月14日に釧網本線浜小清水―藻琴間で、鉄道モードとバスモードの“二刀流”による試験的営業運転が行なわれた。

 2008年には定員を16人から25人以上に増やすため、トヨタ自動車のコースター(マイクロバス)に切り替え、DMV921~923が登場。実用化に向けて、試験などを進めていた。しかし、2011年以降、事故や不祥事が相次いだ影響で、「安全最優先」に方針転換したことから、2014年9月10日に実用化を断念した。

徳島県と阿佐海岸鉄道が実用化に乗り出す

 DMVは全国の自治体や第3セクター鉄道などから注目を集め、試験運行が実施された。徳島県もJR北海道のDMVを借り、2011年11月16日から17日にかけて、JR四国の牟岐線牟岐―阿佐海岸鉄道の阿佐東線宍喰間で走行試験、2012年2月10~12日に試乗参加者を乗せたデモ走行がそれぞれ実施された。

 2016年に入ると、徳島県が「阿佐東線DMV導入協議会」を発足し、DMVの実現に向けて協議を重ねてゆく。阿佐海岸鉄道は開業後、沿線の人口減少などで利用客が伸び悩み、赤字に歯止めがかからない状況だった。同社の井原豊喜専務によると、路線の存続が厳しい状況に追い込まれていたという。しかし、「列車がなくなるというのは、地域(沿線)にしても残念なことになる」(井原専務談)ということもあり、「廃止」という選択肢はなかった。

 幸い阿佐海岸鉄道はDMVを導入する環境が整っていた。海部―甲浦間の距離が8.5キロと短く、改修工事による投資額を抑えることが可能、通勤や通学のラッシュがない、全線が高架、盛土、トンネルという構造なので、駅構内を除き踏切がない。そして、DMV導入の大きな決め手となったのは、「DMVに置き換えることで、DMV自体を観光資源にして、地域の活性化に生かそう」(井原専務談)というものだった。2019年3月16日のダイヤ改正で、牟岐線との直通運転を終え、DMVの導入に向けて準備が進められてゆく。

DMVの実現には大きな壁も

 だが、DMVの実現に向けて大きな壁が立ちはだかる。

 国鉄時代に開業した海部駅が構造上高架の線路から地平の公道をつなぐDMV専用スロープの建設が困難となった。このため、JR四国の協力により、2020年11月1日に牟岐線阿波海南―海部間を阿佐海岸鉄道に編入することで解決した。幸い阿波海南駅は地平にあり、公道と線路をつなぐことが容易にできる。ここで鉄道区間とバス区間の境界となるモードインターチェンジの建設を進めた。

 阿佐海岸鉄道は11月30日限りで気動車による営業運転を終え、DMV化に向けた改修工事が行なわれる(工事期間中はバス代行運転)。当初は2021年夏に開催が延期された東京オリンピック2020大会までのDMV開業を目指していたが、国土交通省からDMVのボンネットに格納する鉄車輪を支えるアームの接合(溶接)部分の強度に不安があると指摘され、強化工事が必要になった。

 補強の末、2021年11月4日の「DMV技術評価委員会」で国土交通省からゴーサインが出て、12月25日に新たな道を歩む運びとなった。当面は混乱を回避するため、「発車オーライネット」による乗車券の予約発売を行なうほか、阿波海南文化村―海の駅とろむ間の1往復を除き、空席がある場合のみ予約なしでも乗車もできる。なお、予約席の配分、席数は状況に合わせて変動するという。

DMV93形の概要

 阿佐海岸鉄道のDMV車両は、トヨタ自動車のコースターを改造したDMV93形が3台在籍している。井原専務によると、JR北海道DMV車両の続番だという。同社に対する敬意の表われといえよう。走行試験などの費用を含め、1台あたり1億4000万円を要したという。当初、別のナンバープレートを掲げていたが、2021年12月頃に「931」「932」「933」に“改番”し、世界初の営業運行に向けて整備した。

 気になるのはDMV車両の寿命だ。都市の路線バス車両は10年程度で新車に更新され、一部は地方のバス事業者に移籍して10年程度使われることが多く、トータル20年程度の運行を想定している。

 井原専務によると、「20年は使いたいですけど、どこまでもつのか」と先が読めない様子。DMVが鉄道区間で走行する鉄車輪は、前面のボンネットと後面のトランクルームにそれぞれ格納しているので、自動車よりも負担がかかるという。鉄道車両の全般検査は4年に1度実施されるが、DMVは当面1年に1度に実施されるので、将来は車両の更新時期に関するデーターが得られるのではないだろうか。

 なお、平日は2台、土休は3台フル稼働のため予備車がない。井原専務によると、全般検査や緊急の点検などが発生した場合、土休の運行本数を減らす方向だという。

DMVのおすすめポイント

 DMVの車内には大型荷物置き場がなく、持ち込みもできない。阿波海南駅に隣接する阿波海南駅前交流館に100円硬貨専用のコインロッカーが設置されている(小は300円、中は400円、大は500円)。両替機はないので、事前に100円硬貨を多く用意したほうがよい。キャリーバッグなどにも対応しており、旅行客がDMVに乗りやすい環境を整えている。また、高校生が牟岐線で通学していることから、憩いの場として重宝しているようだ。

 実際に乗車すると、モードチェンジの際、地元高校生の海南太鼓による演奏が車内に“見せ場”の如く鳴り響く。「バスから鉄道」「鉄道からバス」へのモードチェンジが15秒程度で終わると、「フィニッシュ」の音声放送が淡々と流れ、面白い。

 鉄道区間では、山が切り崩され、トンネルだけが残った海部付近の町内トンネルがそびえたつ。海部では役目を終えたASA-100形気動車とDMVとのツーショット撮影ができる。

 宍喰駅最寄りの宍喰郵便局では、窓口にDMV3台の紙模型を飾っており、“ゆう活”(窓口で旅行貯金や風景印を収集すること)などの観光客を待ち受けている。このほか、役場や警察署などでDMVの横断幕を掲げるなど、地元にとってもDMVが観光客増加の起爆剤になることを目論んでいる。

 井原専務によると、DMV開業後、2022年1月10日までは満席の便もあったが、それ以降はオミクロン株の影響で激減したという。実際に取材した際、乗客が私ひとりだけの便もあった。

課題はほかの交通機関との連携強化

 DMVの平日は定期13往復、臨時2往復、土休は定期12往復、臨時3往復が設定されている。しかし、阿波海南で接続する牟岐線の牟岐―阿波海南間は8往復(夜間の1往復はDMVの運行が終了しているため、接続しない)と少ない。特にDMVの“目玉”といえる阿波海南文化村―海の駅とろむ間の便に乗るには、前日に海部郡海陽町入りするのが無難なようである。

 JR四国のホームページでは「鉄道・バス時刻表 牟岐線・徳島バス、徳島バス南部(徳島⇔甲浦)」を掲載している。牟岐線徳島6時46分発の各駅停車牟岐行きに乗り、終点で徳島バス南部(マイクロバスで運転)に乗り換え、阿波海南駅に近い海部高校前で下車すると、阿波海南文化村―海の駅とろむ間の便に間に合う。

 しかし、この接続のやっかいなところは、牟岐駅構内にバスの停留所がないことだ。徳島バス南部の牟岐停留所は、牟岐駅から徒歩数分の徳島バス南部牟岐営業所内にあり、よく把握していないと道に迷って乗り遅れのリスクもある。

 また、徳島バスは室戸・生見・阿南大阪線という高速バスが運行され、空席がある場合のみ阿南駅―甲浦間で乗降ができる。しかし、阿波海南駅を通過する難点がある。

 DMVをよりいっそう盛り上げてゆくには、地元と交通事業者が一体になって交通環境をよりよい方向に整備しないと、“DMV目当ての観光客が増えないのでは?”と懸念する。

気動車の去就

 DMV化後、ASA-100形は海部、ASA-300形は宍喰車両基地に留置されている。このまま“お飾り”で残すのはもったいない。井原専務によると、何件か問い合わせがあったという。役目を終えた中古の気動車は電車以上に貴重な存在であることから、将来は他社へ移籍し、新天地で活躍することを期待したい。

【取材協力:阿佐海岸鉄道】

岸田法眼(きしだ・ほうがん)
レイルウェイ・ライター。1976年栃木県生まれ。『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人)、『AERA dot.』(朝日新聞出版)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(ともにアルファベータブックス)がある。また、好角家の一面を持つ。引き続き旅や鉄道、小説などを中心に著作を続ける。

デイリー新潮編集部

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