北海道で立ち往生した鉄道の雪対策とは? 首都圏で起こったらどうなるか?

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減少する吹雪防止林

 国鉄時代の数値ながら、北海道には2191カ所の吹雪防止林があり、延長は1073km、面積は東京ドーム1736個分に相当する8118ヘクタールあった。特に函館駅から小樽駅や札幌駅を経て旭川駅に至る延長458.4kmの函館線では約半数の区間で、旭川駅から稚内駅へと至る延長259.4kmの宗谷線では約5分の3の区間でと大変多くの吹雪防止林が線路を守っている。

 余談だが、宗谷線のなかでも最初期に築かれた和寒(わっさむ)駅と士別駅との間の吹雪防止林は、草木も生えない泥炭地に大正時代の国鉄の深川冬至(とうじ)技師が独学で植林に成功したものだ。ドイツトウヒが整然と並ぶこの吹雪防止林は植林者の名を取って深川林地という。一見を勧めたい。

 国鉄時代の吹雪防止林はJR北海道の所有となった後、道北、道東の路線の一部の路線が廃止となったので、延長も面積も減っていると思われる。それでもこれだけの規模であれば札幌圏の鉄道も当然地吹雪から守られているはずだ――。と言いたいが、残念ながらそうではない。特に札幌市内では都市化によって線路の周囲まで人家が密集し、吹雪防止林を植えるどころではないのだ。

 列車が吹き溜まりに埋まった駅として挙げた厚別、苗穂、北広島の各駅前を探しても、人家ばかりで林は見当たらない。北海道の吹雪防止林はほとんどが常緑針葉樹だという点を考慮し、札幌駅を中心として国土地理院の地形図で線路脇に針葉樹林が初めて視界に入る場所を探してみた。

首都圏で同じことが起こると

 函館線岩見沢駅方面は札幌駅から12.2km先の森林公園駅と隣の大麻(おおあさ)駅との間、同じく函館線小樽駅方面は33.8km先の小樽駅まで見当たらず、千歳線新千歳空港駅方面は札幌駅から13.8km先の上野幌(かみのっぽろ)駅と隣の北広島駅との間、札沼線は札幌駅から20.9km先の石狩太美(いしかりふとみ)駅と隣の石狩当別駅との間と、すべて札幌市外だ。代わりに防雪柵が設けられているとしても、吹き溜まり対策としては心もとない。逆に言うと、これだけの悪条件のなか、JR北海道は大雪の日にいままでよく列車を走らせていたものだと感心する。

 さて、普段は全く積雪がなく、地吹雪もまず吹き荒れない首都圏や中京圏、京阪神圏の鉄道が今回の札幌市並みの大雪に見舞われたとしたらどうなるのであろうか。多くの方の予想どおり、地下トンネル内で雪の影響を受けない地下鉄以外はほぼ麻痺してしまうであろう。

 JR北海道の今回の大雪への対応に非難は多いけれども、駅と駅との間に立ち往生した列車は存在せず、大雪のなかで一晩を過ごす羽目に陥った乗客が現れなかった点は大いに評価してよい。首都圏や中京圏、京阪神圏の鉄道も雪に弱いことはある程度仕方がないにしても、列車の車内に長時間閉じ込められるのだけは勘弁してほしいものだ。

 しかし、現状を見る限り、札幌圏に比べると列車の本数が格段に多く、すべての列車を駅に止めるとどうしてもあふれてしまって駅と駅との間に停止せざるを得ない列車が、首都圏で多数現れてしまうのは避けられない。

 その対策として列車の本数を減らすよう、国土交通省は鉄道会社各社に指示を出している。大雪が予想されるときに列車の本数が間引かれるのはこのためだ。朝のラッシュ時など列車の混雑は激しくなるし、目的地に着くのは遅くなるが、大雪のなかで閉じ込められるよりははるかによい。身も蓋もない結論で誠に恐縮ながら、このような日は列車に乗らないようにしておくのがやはり一番だ。

参考文献
今井篤雄、「ふぶき移動量の計算と堆雪量の適合性」、「雪氷」1969年1月号、日本雪氷学会
島村誠、「野辺地防雪林と鉄道林の父、本多静六」および「さまざまな防雪林」、村上温ほか編、『災害から守る・災害に学ぶ』、日本鉄道施設協会、2006年12月
島村誠、「鉄道林とその機能」、「交通技術」1982年4月号、交通協力会
松山清春、「忘れてならない防災施設としての鉄道林」、「交通技術」1985年6月号、交通協力会

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

デイリー新潮編集部

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