藤井聡太が早くも五冠達成 渡辺明三冠を苦しめた“チェンジアップ”とは

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 将棋の藤井聡太四冠(19)が渡辺明三冠(37)に挑んだ王将戦七番勝負の第4局が2月11、12日に立川市のSOPRANO HOTELで開かれ、藤井が114手で勝ち。4-0のストレートで五冠を達成した。19歳6か月の達成はもちろん最年少記録。羽生善治(51)の22歳10か月を大きく上回る。五冠達成者は過去、三人しかいない。達成の年少記録は藤井、羽生に続く3位が中原誠十六世名人(74)の30歳5か月、4位が大山康晴十五世名人の39歳10か月である。王将位の初奪取としても本局の立会人中村修九段(59)の最年少記録を抜いた。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

 これで8つの冠は藤井5(竜王、棋聖、王将、王位、叡王)、渡辺2(名人、棋王) 永瀬拓矢1(王座)となった。完全に「1強」といえよう。

 双方の研究通りになったせいか、初日の午前で60手以上進む超特急ペース。「一日で終わってしまうのでは?」とすら思わせたが、午後からは手が止まりスローペースに。二日目の12日は藤井の封じ手「7六歩」から再開された。

 一時期は藤井を上回った渡辺のAIの評価値も、途中からは藤井を上回ることがない。渡辺は9筋に角を放って遠方から藤井玉を狙ったが、繰り出した馬も守りで下がらざるを得ない。竜が成り込んでも攻撃が続かないのは素人目にもわかる。午後6時23分、藤井の「5八角」の王手を見た渡辺は投了した。

会見でも謙虚なコメント

 終局直後、渡辺は意気消沈していた。「またストレートで負けてしまったことについては……なんというか、残念というのともちょっと違うし」「もうちょっと何とかしたかったんですが……そういう感じです」などと絞り出した。感想戦も「ああーっ。やあー」などため息ともつかぬ声が漏れた。かつて竜王戦で羽生善治九段(51)に3連敗後に4連勝で防衛した大逆転が忘れられない渡辺ファンのわずかな望みは潰えた。渡辺は今後、棋王防衛で永瀬拓矢王座(29)、名人防衛では斎藤慎太郎八段(28)の挑戦を受ける。

 二日目に後手の藤井が76手目で見せた「4四銀」が大きかったとされる。攻め続けると見せてすっと引くような緩手に渡辺は2時間近く長考して悩んだ。日刊スポーツ紙の松浦隆司記者が「野球のチェンジアップ」と表現していたが言い得て妙である。

 藤井はこの晩の会見で「(五冠は)自分の実力を考えると出き過ぎの結果です。今後それに見合う実力を着けていきたい」などと、相変わらず謙虚に話した。

 王将戦、竜王戦など二日制将棋で16勝1敗と驚異的な勝ち方だ。会見で話題になったが、筆者も「子供の頃の藤井五冠を指導された瀬戸市の文本力雄さんも『切れ負けという時間の短い将棋は負けたりしていた。今のように持ち時間が長い将棋は本領発揮』と話していましたが、子供の頃、時間の短い将棋は嫌いでしたか?」と向けた。藤井は「早指しの大会が特に嫌いだったということはないですが、自分としては昔から長考派。当時からじっくりと考えるのが好きだったことはあるのかな」と答えてくれた。

 翌朝会見では「特に第3局では中盤から終盤にかけて苦しい展開が続いた印象。最後は勝負する形に持ち込むことができた」などと話した。実際、第1局と第3局は渡辺にも勝機があったとされる。

 ホテルの藤井の部屋からは富士山が見える。松浦記者から「富士山に譬えれば何合目まで登れましたか?」と聞かれた藤井は「将棋というのはとても奥が深いゲームなのでどこが頂上なのか全く見えないわけなので、まだまだ上の方に行けていないのか」と話した。その談話に「森林限界」なる用語が飛び出し、「森林限界って何?」と囁く記者たちも。藤井の地学などの自然科学が好きな一面も覗いた。

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