「働かないおじさん」は当人を責めても意味がない? 背景に日本型雇用システムが…企業側の対処法は?

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アメとムチが必要

 次に、働かないおじさんを放り出すのはあまりに無責任だからです。高度成長期から1990年頃まで、生産年齢人口が多かった「人口ボーナス期」の日本では、商品をできるだけ量産し、作るだけ売れる時代でした。そこでは、生産形態もベルトコンベヤー式の「工場モデル」が求められ、可能な限り同質性の高い人材が必要とされてきた。大学を出て22歳で就職し、会社の命令で転勤して、同質性を求められる会社員としての役割を必要とされ続け、それに専念してきたおじさんたちを、今になって時代が変わったからと放り出すのは理不尽でしょう。

 したがって、致し方のないリストラというものもあるでしょうが、企業は可能な限り、働かないおじさんたちを働くおじさんに変える努力をすべきだと思います。

 どうやったら、働かないおじさんに働くモチベーションを与えられるのか。各社、「アメとムチ」を活用しているようです。

 例えば、大和証券は「ASP研修」というものを設けています。45歳以上の社員を対象に、「数値分析のスキル」「PCスキル」といった40の講座を用意し、それをパソコンで受講するeラーニング方式で行う。そして講座を修了するごとにポイントがもらえ、そのポイントに応じて以後の処遇が決まる。つまり、勉強したらリターンがあり、企業がそうしたインセンティブを作ることで働かないおじさんたちに学び直しを促しているのです。

 また、サントリーHDは名誉職を設けてミドル・シニア社員の心をくすぐり、NECは新卒と同じくらい中途人材を採用し、外からダイバーシティを取り入れることで元からの社員の意識改革を促進しています。

非難したくなる若手社員の気持ちも分かるが……

〈企業に求められる働かないおじさんの「働く化」。他方、当の働かないおじさんたちはどんな心持ちで「昭和型」が通じにくい現代の難局を乗り切るべきなのか。続いて、『働かないオジサンの給料はなぜ高いのか』の著者で、神戸松蔭女子学院大学教授の楠木新氏が「おじさん編」を語る。〉

「新しいスキルを一向に覚えようとしない」

「あの人たちのやる気のなさを見せつけられると、こっちのやる気まで削がれる」

 20代、30代の会社員に話を聞くと、仕事に対して意欲が見られず、生産性も低いミドル・シニア社員に対する非難の声をよく耳にします。賃金も上がらず、労働条件や労働環境改善の見通しも明るくない。そうした状況で、将来への不安を感じている若手社員は少なくありません。そうして自らの境遇に不満や不安を募らせている若手社員たちの鬱憤のはけ口に、働かないおじさんが選ばれているようにも感じられます。

 働かないおじさんに対して苛立ちを覚えるのは理解できます。しかし、今は周囲の同僚の足手まといになっていたり、過去の成功体験や役職などを振りかざしているおじさんたちも、実は、これでいいのだと思っている人はごく少数です。

 ほとんどのおじさんが、本音ではもっと企業に貢献し、自らも輝きたいと考えている。しかし、本人も気付かない間に、または薄々勘付きながらも上手く対応できず、現在の状況になってしまった……。つまり、働かないおじさんは「働けないおじさん」と言い換えることもできるわけです。

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