羽生善治九段がA級から陥落 井上慶太九段が明かした二十数年前の仰天エピソード

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 国民栄誉賞棋士、羽生善治九段(51、永世七冠資格)が、2月4日に千駄ヶ谷の将棋会館で行われたA級順位戦リーグの8回戦で、永瀬拓矢王座(29)に敗れて6敗目を喫し、2勝6敗となり、B級1組への降級が決まった。羽生は1993年(平成5年)から連続29期、維持してきたA級在位が途切れることになる。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

 たった10人のA級棋士はトップ棋士の代名詞でもあり、総当たりリーグで名人挑戦者が決まるが、この間、羽生は名人を9期にわたって獲得している。羽生は一昨年の竜王戦では挑戦者として登場するなど、まだトップの力を見せていた。しかし、前期と前々期のA級順位戦はともに4勝5敗で負け越し、今期は特に精彩を欠いていた。

 この日、黒いマスクで永瀬王座との対局に臨んでいた羽生自身がそれを、一番感じていたのだろう。終局直後の主催社記者の質問では対局内容の後に降級のことを尋ねられ「内容も結果も伴っていなかったので、まあ致し方ない」と淡々と話した。B級での戦いについて問われると、ちょっとせっかちな質問だなあと思ったのか、「まあっ」と少し噴き出しかけ、「そうですね。まだ何も考えていないので。全力を尽くしたい」と答えていた。

 A級在位の連続記録のトップは69歳で他界するまで一度もA級から落ちなかった怪物、故・大山康晴十五世名人の44期(うち名人18期)である。続いて谷川浩司九段(59、十七世名人資格)の32期(同5期)、升田幸三実力制第四代名人(同2期 故人)の31期。羽生の29期はこれに続き、中原誠十六世名人(74、同15期 引退)と並んで4位タイである。ヒフミンこと加藤一二三九段(82)は通算では36期も在籍し、名人にも一期輝いたが何度か降級、復帰をしており連続の在籍記録は19である。

「今期はちょっと『らしくないなあ』という内容の将棋が見られましたし、調子もよくなかったようです。さすがに今はちょっとガクッと来ておられるかもしれませんが、来期に羽生さんがB1で戦われれば間違いなく、昇級の筆頭候補。まだまだその実力は健在ですよ」と太鼓判を押すのは羽生と第一線の舞台で多く戦ってきた(公益財団法人)日本将棋連盟常務理事の井上慶太九段(58)である。「A級復帰」の経験者だ。

 井上は兵庫県加古川市で「加古川将棋倶楽部」を運営。稲葉陽八段(33)、菅井竜也八段(29)、船江恒平六段(34)ら、錚々たる若手を育てながら自らも現役で奮戦する。順位戦A級に3期在籍した実力者だが、なぜかタイトルにだけは縁がないことが、「将棋界七不思議のひとつ」とも言われる名棋士である。

 井上は19歳と遅いプロ入り。C級2組では7期ももたついたがその後は驀進し、1996年度にA級入りを決めた。しかし1998年度の順位戦で降級した。それでも08年度のB級1組の順位戦でA級へ復帰した。なんと11期ぶりの復帰だ。復帰までの最長期間記録は、日本将棋連盟の会長も務めた原田泰夫九段(故人)の14期ぶりという記録があるが、井上の11期ぶりはこれに次ぐ。

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