フェイクニュースがない世界の方が恐ろしい? 一周回って旧来メディアの存在が重要に(古市憲寿)

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 Netflixで配信の始まった「新聞記者」というドラマを観ていたら、就活中の大学生が、新聞を読むことを誇りながら、「ネットなんかフェイクニュースばっかでリテラシー低いよ、マジ」と話していた。彼の頭の悪さを表現するための台詞なのだろうが、よくこんな馬鹿なフレーズを思いつくものだと笑ってしまった。

 解説するまでもなく、インターネット上で閲覧できる多くのニュースは、新聞やテレビなどからの転載である。もちろん明らかな「フェイク」もあるが、それは旧来メディアも同じことだ。

 たとえば、見出しの最後に「?」や「か?」をつけて、「フェイク」に近い情報で世論を誘導しようとするのは新聞の得意技である。また記者が安易にリークに飛びついて、政局や社内政治に利用されることも度々だ。

 実は、「フェイク」に関しては、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)系のプラットフォームの方がよほど厳しい言論統制を実施している。たとえば漫画家の小林よしのりさんは、コロナワクチンの危険性を過激に訴えてきた。雑誌「SPA!」では毎週、小林さんの原稿が掲載され、『コロナ論』として単行本化もされている。

 しかしYouTube(グーグルの子会社)では、小林さんのチャンネルはアカウント停止措置を受けている。小林さんのようなワクチン危険論が「フェイク」認定され、規制を受けたわけだ。

 僕自身は、ウォルター・アイザックソンの『The Code Breaker』を読んで、mRNAワクチン開発物語に感銘を受け、さっさと接種を済ませたタイプだが、小林さんのような意見を一律に排除すべきだとは思わない。ワクチンに限らず、あらゆる「トゥルース」と「フェイク」が、簡単に峻別できるとは限らないからだ。

 これからの数十年、GAFAの影響力は増していくだろう。彼らは私企業なので、恣意的な基準で情報を統制することが可能だ。アメリカの大統領選挙では、フェイスブックのアルゴリズムが、投票結果に影響を与えるのではないかと議論になった。GAFAが本気を出せば、人々の嗜好に影響を与えることなどたやすいだろう。

 だから一周回って、紙の新聞やテレビなど、旧来メディアが重要となる。それはフェイクニュースに惑わされないためではない。むしろ逆で、GAFAに「フェイク」と断罪されてしまうような情報を守るためだ。

 フェイクニュースの溢れる世界よりも、フェイクのない世界の方が怖い。戦時下の日本や北朝鮮を想像してみればいい。時代ごとに正解は変わる。常識は覆る。GAFAだけが「トゥルース」を牛耳る世界よりも、たとえゴシップだらけでも、テレビや雑誌が残る世界のほうが、言論環境は豊かだ。

「新聞記者」に出てきた大学生には、こんなふうに伝えてあげたい。「ネットって、フェイクニュースがどんどん削除されるんだよ。それがどんなに危険かわかるかな。君さ、紙の新聞に書いてあることなら全て信じるわけ? それはそれでリテラシー低いよ、マジ」。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2022年2月10日号掲載