東大前刺傷事件 社会心理学者が読み解く東大理III志望「高2被疑者」の“心の闇”

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優しすぎる社会の罠

「結局のところ、最近の若者は打たれ弱いんだよ」──こんな発言も聞こえてきそうだが、昨今の風潮では“暴言”と受け止められるのは間違いない。

 ところが碓井教授によると、「素人の暴言」と切って捨てるわけにはいかない、重要な視点が含まれているという。

「2018年の東海道新幹線殺傷事件が昨年の京王線刺傷事件を引き起こすなど、近年の通り魔事件が連鎖しているのは間違いありません。特にネット上では“生きづらさ”が語られるなど、希望が持てない社会であることが通り魔の連鎖を生んでいると言えるでしょう。『最近の若者が打たれ弱い』という指摘は事実ではないにしても、今の若者は『打たれる機会すら奪われた』社会であるという点は重要だと思います」

 誰もが優しく、「君には無限の可能性があるんだ」と常に励ましてくれる社会。説教や怒号が飛ばない学校や職場──もちろんメリットも大きいだろうが、「打たれる機会が奪われる」というデメリットも否定できない。

「例えば、教師が問答無用で夢を否定すれば、生徒は直接的な苦痛を味わいます。ただし、そうした“打たれた経験”が、挫折を乗り越える力を与える場合もあります。その一方、誰もが優しく、夢を夢として否定しない社会は、それはそれで真綿で首を絞められるような苦痛を与えるかもしれないのです。人間は誰もがどこかで挫折を体験します。幼い時から競争を排除し、なるべく挫折の辛さに直面しないように大人が配慮していると、子供たちは挫折を経験した時、どう自分で折り合いを付けて良いのか、分からなくなるという弊害もあると思います」(同・碓井教授)

デイリー新潮編集部

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