コロッケ級の顔芸…いま「尾上松也」がアツい! 「まったり!赤胴鈴之助」の見どころは

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 新年早々、自分好みのドラマが多くて驚いている。特に、NHKとフジテレビ。捏造発覚、早期退職者募集など不穏な話が口にのぼっている二局だが、ドラマはかなり面白く、初回だけを観て原稿に書くのは惜しい。ということで、今回は当て馬……じゃなくて噛ませ犬……じゃなくて、他の特筆するべき作品を。「まったり!赤胴鈴之助」である。もうね、イメージビジュアルを観た段階から期待大。むっちりもっちり尾上松也の顔芸は、コロッケ級の破壊力というか、細部に人工知能感が宿る。くっきり&跳ね上げアイラインにノーズシャドウ濃いめ、白目を剥き、しゃくれた顎の松也を観たら、もう描きたくてうずうず。こう言っちゃなんだが、たいした内容ではないので、初回視聴だけで紹介に踏み切る。

 しかも今回は企画が松也本人。父の六代目尾上松助が子役時代に赤胴鈴之助を演じたという曰くつき、もとい、ほんのり父子愛を匂わせつつもエエ話で納めずに笑かすコメディに仕立て上げるサービス精神。そういうとこ、松也最高。過去の素行の悪さをエエ話で覆い、まんまと株を上げた歌舞伎役者とは違うわね。

 物語というか、設定は案外雑(後輩役の稲葉友も劇中カメラ目線で言ってた)。江戸で悪党成敗に明け暮れていた剣士・赤胴鈴之助(松也)が、井戸を通じて令和にタイムスリップ。兄弟子の雷之進(今野浩喜)も、悪党の銀髪鬼(近藤芳正)が率いる鬼面党一味も、なぜか全員まるっとタイムスリップしている設定だ。

 三つ葉商事で働くことになった鈴之助は、まったく仕事ができない。パソコンも使えずコピーすらとれない。なぜなら剣士だから。時給950円の契約社員だが、社内では完全にお荷物。次期社長の部長(中村隼人)が採用してくれたものの、サラリーマンとしては前途多難だ。師匠(坂東彦三郎)の下で悪と戦っていた頃を懐かしく思うも、今は平和な世。モチベーションを失い、心に隙間が空いている。

 由緒正しき伝統芸能を担う梨園の人々(松竹の人ね)を雑に巻き込んで、決め台詞に必殺技と悪ふざけする松也。殺陣(たて)を華麗にこなす見せ場もあるが、令和では剣豪ほど役に立たないものはない。その悲劇が笑える。

 実は悪党も同様。鬼面党の鬼塚(六角慎司)は平和な世で悪事を働くことに疑問を感じ始めている。しかもボスの銀髪鬼は命令する割に、自分は家庭にちんまり納まって、娘(堀未央奈)に毛嫌いされる肩身の狭いお父さんになりさがっていて。正義の味方も悪党も、令和においてはアイデンティティー喪失。使えないおじさんたちの哀愁譚という体裁だ。

 松也に波が来てる。2019年には山崎育三郎と城田優とIMY(アイマイ)も結成したし、今期は月9にも出演。波に乗るだけの他力本願ではなく、自ら掴みにいく姿勢がいい。歌舞伎にとどまらず、エンターテイナーとしての松也の暗躍に期待している。

 ちなみに、本作は松也の主演作「さぼリーマン甘太朗」「課長バカ一代」と合わせて、尾上松也爆笑顔芸3部作として永久保存しとく。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年1月27日号掲載

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