中国が幸せの国「ブータン」を侵略 40年の国境画定交渉を無視するあり得ない手口とは

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「中国がブータンと係争中の国境地帯での入植地建設を加速させている」

 これを報じたのは1月12日付ロイターだ。ロイターは米国のデータ分析会社ホークアイ360から衛星画像とその分析結果の提供を受け、専門家2人に検証を依頼した。その結果、中国がブータン西部の国境沿いの6か所で200以上の構造物の建設を進めていることがわかった。中国が入植地の建設計画を発表したのは2017年だ。2020年から工事が始まり、昨年になって建設が加速したとされている。政府が住民に補助金を出して、入植を進めていると噂されている。

 日本で「幸せの国」として知られるブータンの人口は80万人に満たない。中国と国交を結んでいないブータンは約40年間、およそ500kmに及ぶ国境を画定させるために中国と粘り強く交渉を続けてきた。

 だが今や超大国になった中国は、「吹けば飛ぶ」ようなブータンとまともに向き合おうとはしていない。既成事実を積み上げることで国境問題を強引な形で解決しようとしている。南シナ海で人口島を建設し領有権を主張する手口と同じだと言っても過言ではない。ブータンの領土保全のための長年の努力は水泡に帰そうとしている。

インドも反発する中国の入植地建設

 領土の侵略ともいえる中国の入植地建設は、ブータンの庇護者を任ずるインドの安全保障にも直結する問題だ。入植地は中国、インド、ブータンが国境を接するドクラム高原にほど近く、この場所に中国が軍用道路を建設したことが原因で、2017年に中印両国の部隊が2カ月以上にわたって対峙した経緯がある。

 ドクラム高原の南に位置するシリグリ回廊はインドの中心地域と北東地域を結ぶ戦略的に重要な場所だ。シリグリ回廊の幅は狭い(最小で約22km)ことから「ニワトリの首」と呼ばれている。中国がドクラム高原を制圧し、さらに南下して「ニワトリの首」を押さえてしまえば、インドの北東地域は孤立してしまう可能性が高い。

 自らのアキレス腱を脅かす中国の入植地建設に対し、インドもブータンと同様、反発しているが、有効な対応をとれないでいるという。

 インドと中国の間の3500kmにも及ぶ国境は未画定のままだ。

 ドクラムから約1100km離れたラダック地域でも2020年両軍の間で乱闘が生じ犠牲者が出たことから、両軍の大部隊は今でも緊張したままの状態だ。

 ラダック地域では今年1月1日、10地点で新年の挨拶とお菓子の交換が行われ、20カ月にわたる両軍の緊張緩和の兆しが見えていた。だがその直後に中国が密かに軍備拡張を進めていることが明らかになった。衛星画像を分析したインドメデイアは「ラダック地域にあるバンドン湖で、軍隊や武器を円滑に前線に移動させるために橋を建設している」と報じた。橋はバンドン湖の中国側にあり、ほぼ完成しているという。「中国はこれにより軍隊や武器を係争地帯に送るためのルートをもう一つ確保したことになる」としてインド側は警戒感を一層強めている。

 中国はヒマラヤ高地での活動に200台以上のロボットを派遣する計画を実行に移そうとしている(2021年12月30日付デイリーメール)。兵士は極寒の山間部の酸素の薄い条件下で警戒活動などを行うことが困難なため、ロボットに入れ替えることを決定したのだという。派遣されるロボットは物資を運搬できる。小銃も装備しており、砲撃戦などの際にも様々な任務を遂行できるとされている。

 中国は昨年末にも、インドが実効支配する北東部アルナチャルプラデシュ州内に「古里」「馬加」といった漢字表記の「公式名称」を一方的に発表した。中国が「有史以来の中国の領土に条例に基づいて命名した」としているのに対し、インドは「中国語の地名を付けようとアルナチャルプラデシュ州がインドの不可分の領土であるという事実が変わることはない」と猛反発している。

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