藤井聡太が抜けない最年少記録とは?「神武以来の天才」と言われた男の恐るべき早熟

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空中殺法

 さて、藤井が敗れた順位戦。千田が圧倒的に攻めていて、藤井はどう反撃するのか見守っていた。千田は二枚の桂馬を大胆に中央まで繰り出した。AbemaTVで解説していた「オヤジギャグ」やダジャレで知られる豊川孝弘七段(54)は「ミル・マスカラス、空中殺法」と表現した。

 ちなみに千田は藤井が、2018年2月に初優勝して以来、3度優勝している「朝日杯将棋オープン」で2020年に藤井の連続優勝を止めて優勝したこともある強豪棋士である。この時の朝日杯では藤井を直接破っており、これで藤井は千田に2敗(4勝)したことになる。藤井と伍することのできる強豪棋士は何もタイトルホルダーだけではないのだ。藤井は1月16日に行われた朝日杯の準々決勝で、永瀬拓矢王座(29)に敗れて敗退してしまった。

 もちろんA級の順位戦リーグも熾烈な戦いが続く。下位二人が降級するが、現在、A級在位を38期も守り続けてきた羽生善治九段(51 永世七冠資格)がややピンチになっている。B級1組に降級し、藤井聡太が入れ替わって昇級するということになれば、まさにヒーローの交代劇を彷彿とさせることになろう。レジェンドがどこまで踏ん張るかも見ものだ。

 前後するが静岡県の掛川城で1月9、10両日に行われた王将戦第1局の前日会見に駆け付けた。筆者が渡辺三冠に「昨年の藤井四冠と豊島(将之)九段の戦いを研究されて今回、生かせるものはありましたか?」と質問すると「もちろん注目していましたし、豊島さんの側に立って見ていましたが、豊島さんとはタイプも違いますし、参考になるようでならないというのが正直な所かと思います」と答えてくれた。しかしスローペースの大熱戦の末、藤井が制した。プロの誰もが「常識外れ」と驚いた41手目の「8六歩」の奇手が藤井に出て、渡辺は応手に1時間半もかけた場面があった。

 渡辺はここまで藤井との対戦成績が2勝9敗となった。

 一昨年は藤井に棋聖を奪われている。今回の王将戦、「渡辺は初戦に勝たないと厳しくなるのでは」と話していたベテラン観戦記者もいたが、何といっても、これまで将棋界で前例のない「四冠VS三冠」の歴史的な対局である。まだまだ熱戦を続けてほしい王将戦の第2局は、1月22日から大阪府高槻市で行われる。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮編集部

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