「令和のイチロー」山下航汰がアマに出戻り…元プロでも簡単に活躍できない社会人野球の“厳しい現実”

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基本的に“短期決戦”

 昨年11月28日から12月9日まで行われていた、社会人野球最大の大会である都市対抗野球にも、8人の元NPB選手が出場していた。元NPB選手とは、田中太一(巨人→セガサミー→能代松陵クラブ)、田川賢吾(ヤクルト→日立製作所)、仲尾次オスカル(広島→日本製鉄かずさマジック)、小関翔太(楽天→日本製鉄かずさマジック)、須田幸太(DeNA→JFE東日本)、網谷圭将(DeNA→ヤマハ)、細山田武史(DeNA→ソフトバンク→トヨタ自動車)、中田亮二(中日→JR東海)である(※田中はTDKの補強選手として出場)。

 しかしながら、大会後に表彰された37人の優秀選手には誰1人も選出されていない。また、1年を通じて活躍した選手をポジションごとに表彰する「社会人ベストナイン」の顔ぶれを見ても、過去10年で表彰された元NPB選手は、12年の梶原康司(阪神→パナソニック)と19年の須田幸太(DeNA→JFE東日本)しかいない(※2020年は表彰自体中止された)。これを見ても、いかにNPBでプレーしていた選手でも、社会人野球の一線級で活躍するのは困難なことがよく分かる。

 その要因として大きいのは、社会人野球の仕組みと、この世界で勝ち残っている選手たちの特性にある。プロ野球はリーグ戦で143試合を戦う長期戦だが、社会人野球の都市対抗と日本選手権は負けたら終わりのトーナメントだ。その出場を決める大会や予選も一部リーグ戦などはあるものの、基本的に“短期決戦”で行われている。

プロよりもプロらしい

 そうなると、当然求められるのはミスの少ない選手であり、投手でも安定感が何よりも求められる。高校や大学時代に“大器”と期待されながら、完成度が低いがゆえ、社会人野球の公式戦になかなか出ることができない選手もいる。

 また、社会人野球で生き残ってきた20代後半から30代前半の選手が醸し出す雰囲気は“プロよりもプロらしい”と感じることもある。最近はプロの二軍や三軍が社会人チームと交流戦を行うケースが多いが、社会人がプロを圧倒することも珍しいことではない。

 山下が入部する三菱重工Eastも、都市対抗での優勝経験はないとはいえ、10年と17年に準決勝進出を果たした強豪だ。20年、三菱重工グループの再編もあって部員数は多く、チーム内の競争も非常に激しい。いくら高卒1年目で二軍の首位打者を獲得した山下でさえ、レギュラーの獲得は一筋縄ではいかないだろう。

 ただ、高校からプロの世界に飛び込んだ山下にとって、社会人野球の経験がもたらす、プラスも大きいはず。今年で22歳と若いだけに、あらゆるものを吸収し、支配下登録での契約オファーを出さなかった巨人や、獲得に動かなかった球団を後悔させる活躍を見せてほしい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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