岩森稔死刑囚の病死で、拘置所に残る確定死刑囚は107人も なかなか執行されないワケ

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認知症で執行不可!?

 岩森死刑囚を含め、刑が執行されずに死亡が発表された死刑囚のうち直近の10人を見ると、9人が病死、1人が自殺だった。

「全員が男性で、平均年齢は76・3歳。ちなみに7月に厚労省が発表した日本人の平均寿命を見ると、男性は81・6歳でした。死刑囚の死因は誤嚥性肺炎など、高齢が原因だと思われるものが多数を占めます」(同・記者)

 ひょっとすると、高齢の死刑囚は執行が後回しにされるのではないか──こんな疑問も頭をよぎる。

 だが、元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は「死刑囚の年齢は関係ないでしょう」と否定する。

「一般的には、再審請求のほうが影響を与えます。請求には『死刑執行を逃れる』ことを目的にしたものも少なくありません。その一方で、やはりなおざりにできない請求が存在することも間違いありません」

 ただし、拘置所の職員が、死刑執行に躊躇を感じる場面もあるという。それは死刑囚が認知症や精神疾患に罹患している場合だ。

「死刑とは、死刑囚に自分の犯した罪の重さを自覚させ、心からの悔い改めを求めるために執行するものです。ところが、死刑を執行される側が判断力を著しく低下させているとなると、その意義が失われてしまいます。年齢が執行を躊躇させることはないと申しましたが、高齢により認知症が認められるとなると、話は違ってきます」(同・若狭氏)

法務大臣の“罪”

 若狭氏はネット上の「なぜ死刑を執行しないのか」という疑問の声に、一定の理解を示す。

「世論調査を行うと、死刑制度は8割近い国民が支持しています。これを前提に考えた際、死刑が執行されないことに国民が異議を表明するのは理解ができます。特に被害者遺族は、愛する身内が極めて残忍な方法で殺されました。その無念を晴らす方法を国に託したはずなのに、それを国は行使しなかった。批判は当然でしょう」

 岩森死刑囚が病死したことや、12月21日に死刑執行が行われたことで、刑事施設に収容されている確定死刑囚は107人となった。この事実に驚く方もいるだろう。

「どこに問題があったかと追求していけば、最終的には法務大臣の責任になるでしょう。歴代の大臣が死刑執行の書類にサインをしなかったからです。現場では、たとえ高齢の死刑囚でも躊躇を感じることはありませんが、大臣は違ったかもしれません。『放っておいても病死するだろう』と判断した可能性はあります。法相を任命する際、死刑執行についてはこれまで以上に態度を明確にする必要があるのではないでしょうか」(同・若狭氏)

註1:本庄夫婦殺害 会社倒産、金に困窮 再逮捕の岩森容疑者「温和な人」急変(読売新聞・2007年3月20日朝刊)

註2:埼玉・本庄の夫婦殺害 顔見知りの男「借金断られ犯行」 強盗殺人容疑で逮捕(NHKニュース・2007年3月19日)

デイリー新潮編集部

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