笑顔のシバきあい…岸田首相は「脱アベ政治」で自民党内に流れる不穏な空気

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中国、財政でも…

 真っ向から対立するのは安倍元首相で、12月13日のBS日テレの番組では「中国に対する政治的メッセージは日本がリーダーシップをとるべきだ」と指摘。その上で「時を稼いでどういう利益があるのか。日本は結局、物事を決められないのではないかと思われてはならない」と語り、判断に時間をかけている政権に圧をかけていると受け止められている。

 安倍氏ら保守系議員は、林芳正外相の早期訪中にも「誤ったメッセージになる」と再考するよう求めている。これに対して、福田達夫党総務会長は「国益を守るためにも、関係づくりをしなければならない相手に外相の職務を果たすのは当たり前だ」と反発。岸田氏と総裁選で争った河野太郎党広報本部長も「威勢のいいことを言っておけば良いとの無責任な声が増えているのは、大いに懸念しなければならない」と対中強硬派を強く牽制し、首相陣営と元首相陣営の溝は広がる。

 財政政策をめぐっても両者のスタンスは遠く、首相は党総裁直轄機関として財政規律を重んじる「財政健全化推進本部」(本部長・額賀福志郎元財務相)をスタート。一方の安倍氏は積極財政派が顔を並べる「財政政策検討本部」(本部長・西田昌司参院議員)の最高顧問に就いた。検討本部を自らの下に発足させた高市氏は「財政健全化を強く主張される方々が総裁の周りを固めており、政調会長への風圧は今かなり強い」とこぼすほどである。

 岸田首相の政権運営について、安倍氏は12月1日の日経新聞のインタビューで「政権が代わればそれまでの政権と違うものを期待される。その要請にこたえるのもトップリーダーの役割だ」と理解を示している。だが、宏池会を担当した全国紙政治記者は自民党内の雰囲気が不穏なものになりつつあると証言する。

「表向きは安倍氏も長期政権になってほしいとかにこやかに言っていますが、自分を否定されるような動きに腹の中は面白くないと思いますよ。岸田首相からすれば、憲法改正も、北方領土問題も、北朝鮮による日本人拉致問題も、あれだけ安倍氏は長期政権を担ったのに何一つ解決しなかったではないかとの思いを抱いているのではないでしょうか。積み残された宿題を着実にやっていこうというのに、自分のことを棚に上げて『辞めた後に、評論家みたいに騒がないでくれよ』という感じだと思います」

 宮澤喜一元首相以来30年ぶりに宏池会から誕生した国家の最高権力者と、最大派閥の「数」を背景に政権を操縦したい元首相。権力闘争が日常茶飯事の永田町とはいえ、そのパワーゲームは近年にない壮絶なものとなっている。

小倉健一(おぐら・けんいち)
イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒。国会議員秘書からプレジデント社入社。プレジデント編集長を経て2021年7月に独立。

デイリー新潮編集部

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