「ミス・ユニバース」タイ代表が物議 セクシー衣装で立つ“位置”が王室侮辱になるワケ

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「青」の上に立つ意味

 SNSでの人気が高いアンチリさんは、Instagramでは約45万人、Facebookでは約10万人、Twitterでは約9万2000人のフォロワーを持つ。ミス・タイに選ばれたことに「タイ代表に選ばれたことはとても名誉なことだが、何よりもタイ人であることを誇りに思う」(Twitterより)と投稿していた。

 それだけに今回の「国旗侮辱騒動」には困惑しているようだ。現在、ミス・ユニバース・タイ代表の公式ホームページから当該の写真は削除され、アンチリさんは沈黙を保っている。

 またこの騒動、思わぬ形で現在のタイ社会における「王族」の在り方に一石を投じてしまった感もある。件の写真でアンチリさんが立つ国旗の位置が「青色」だからだ。

 タイ国旗は上下に赤と白、中央部分に青の横帯が配色されている。赤は血、つまり生命を尊重すること、白は仏教の純粋さの象徴とされ、青はタイの君主制を表現している。アンチリさんが君主制、つまり王室を表す「青」の上に立っていることは、王室をも侮辱していることになりかねないというのだ。

 タイには国王や王族に対する「不敬罪」が存在し、最高で1件につき禁固15年が科せられる。だが、自由奔放な現国王に対する国民感情はあまり良くはなく、軍政の流れを汲むプラユット政権への反政府運動と併せ、反王室運動が昨年は盛んに展開された。一時よりは鎮静化したとはいえ、「不敬罪」そのものを撤廃しようという動きは根強く残っている。そのためアンチリさんの“姿勢”が、政治的な意味を持ってしまっているわけだ。

 国旗法違反で有罪となると、最大で禁固2年か罰金4万バーツ(約14万円)の刑が科される。だが、地元紙などには「国旗に対する悪意に基づくものではないので、刑事告発には馴染まない」といった弁護士の見解が掲載されている。アンチリさんに対する告発もあまり国民の支持を得ておらず、SNSにはアンチリさんを支持する声があふれている。告発を受けたバンコク警視庁はどう対応するのか、大会前には本選の結果とともに注目を集めていた。

 結果、アンチリさんは、大会本戦でベスト16の選に漏れ、栄冠を獲得することはできなかった。本戦では、問題となった衣装ではなく腰のベルトの部分に国旗色を配した衣装を着用。12月17日にタイに帰国したが、すでに国内では「国旗侮辱」に関する報道は鎮静化している。むしろSNSなどには、本戦での健闘を称えるメッセージが書き込まれていた。騒動は「一件落着」といえそうな雲行きだが――。

大塚智彦(フリーランスライター)

デイリー新潮編集部

2021年12月20日掲載

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