映画・ドラマ制作者3人に聞いた「うまい演技とは何か」「うまい俳優の実名」

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

女優と作品

 次は北海道大大学院文学研究科教授で映画評論家の阿部嘉昭氏に話を聞く。阿部教授は女優に絞って論じてくれた。

 阿部教授は西友映画製作事業部に勤務していた時代に「嵐が丘」(1988年)、「千利休 本覺坊遺文」(1989年)の制作や宣伝を担当した。
 阿部教授は女優を評価するにあたっては本来、作品ごとに行うべきだと考えている。

「作品条件に溶け込んでいるかどうかが問われますから。だから『作品〇〇での女優〇〇がうまい』という限定的な言い方のほうが正しい。むろん中にはどの作品でも常にうまい女優もいますけれども」(阿部嘉昭氏)

 次に具体的な女優名を挙げてくれた。まず故人から。

「杉村春子さん。たとえば小津安二郎監督の『麦秋』(1951年)で原節子さんが、二本柳寛さんが演じた杉村さんの息子との結婚をふと示唆したとき、『ほんとね? ほんとよ! ほんとにするわよ!』と、小津映画的な同語反復を行いますが、この場面、何度観ても泣けてしまいます。小津は俳優に煩い自己展開力を求めていませんが、杉村さんだけにはその例外者の位置が特権的に与えられていて、それを抜群の技量でこなしました。抑制と発露のバランスが見事でした」(同)

 次に挙げたのは高峰秀子さん。

「表情変化の奇跡的な速さによって、内心が複雑に分割されて推移してゆく人。分割は最終的に、女性全般の普遍性と、役柄の悲劇的な唯一性とに分岐してゆきます。特にそれが分かるのが、成瀬巳喜男監督の『浮雲』(1955)。加齢の兆しを示す体の頽勢表現(勢いが衰えたことの表し方)も綿密でした」(同)

 さらに左幸子さん。

「川島雄三監督の『幕末太陽傳』(1957年)は落語原作のパッチワークですが、主演でもともとジャズマンのフランキー堺さんがその躍動性を原資にした演技をしたのに対し、ただ1人、左さんが落語人物に変貌していて、画面のトーンを深く保証しています。女優の落語的演技は、歌舞伎的演技と違い、希有です」(同)

 ほかに故・山田五十鈴さん、「緋牡丹博徒シリーズ」(1968年~72)の藤純子(現・富司純子、76)、増村保造監督映画の若尾文子(88)、コメディエンヌとしての岡田茉莉子(88)らを挙げた。

 今も第一線にいる女優では最初に松たか子(44)の名前を挙げた。

「サブカル的なたくらみを盛った坂元裕二脚本のドラマを、抜群の表情変化とリズムでこなします。しかも高峰秀子的な粘着力ではなく、そのいたずらっぽく、乾いた表面性が現在的です。映像に現代的に存在するときの範例が彼女にある」(同)

 次に宮沢りえ(48)。

「立派な演技をしすぎる嫌いもありますが、存在に籠められた悲哀の分量の多さに圧倒されることがある。とくに性愛にくらみ、横領犯罪を繰り返す女性を演じた吉田大八監督の映画『紙の月』(2014年)。覚悟した宮沢の表情の深さに、平滑な顔の小林聡美が対置され続けるラストが圧巻でした。所作のきれいさは映画『たそがれ清兵衛』(2002年)で既に達成されていました」(同)

 続いて小松菜奈(25)。

「犯罪者たちに拉致されるホステス役を演じた真利子哲也監督の映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)での泣けてしまうような迫力、永井聡監督の『恋は雨上がりのように』(2018年)での等身大の女子高生、双方をこなし、その力量の幅に感動しました。『恋は――』での大泉洋との恋を前向きに断念して別れてゆくラストで小松の表情は震えていましたが、そこには物凄く多くのものが混ざり合っていた」(同)

 次に清原果耶(19)。

「NHKの朝ドラの前作『おかえりモネ』の終盤、妹の未知(蒔田彩珠)のトラウマの本質を知った清原扮するモネが、『みーちゃんは悪くない』と繰り返した。同語反復性によって心底泣けてしまうのは、『麦秋』の杉村春子以来だったかもしれない」(同)

 さらに安藤サクラ(35)、杉咲花(24)らの名前を挙げた。

「『子役あがり』の名女優は映画黄金期では高峰秀子さんらが該当しますが、清原や杉咲の美質はその文化を継承している」(同)

 名優が絶えた時代はない。ここで名前が出てこなかった俳優の中にも、もちろん名優はいるし、これからも名優は生まれ続けるはずだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。