ロバート キャンベルさん「私の食卓日記」 コロナ感染者が減って1番の楽しみは?

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 1週間の食生活でかいま見える人となり――。週刊新潮に掲載されている人気コラム「私の週間食卓日記」では、著名人の食事記録を元に、献立評論家の荒牧麻子先生がアドバイスしています。今回は日本文学者のロバート キャンベルさんが登場。新型コロナの感染者数が落ち着くなかで、小旅行や友人との外食など少しずつ動き出したキャンベルさんの日常を執筆していただきました。

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 季節が深まると「秋冷」と「空腹」というわたくしの歳時記にとって欠かせない「季ーワード」が心に何度となく浮かんでは消える今日この頃。東京都の1日の新型コロナウイルス新規感染者がついに10人台にまで下がったことを幸いに、ゆっくりとではあるけれど、外食の回数を増やしている。夏にワクチンを2回接種したものの油断は禁物。マスクと消毒液を片時も身から離さず地下鉄を乗り継ぎ、タクシーに運ばれて1年以上も会っていない友人、敷居をまたがずにいた馴染みのレストランや開店したばかりの料理店などを訪ね、美味しいものを食べたり飲んだりすることが今秋一番の楽しみとなっている。

11月13日(土)

 前の晩から夫と二人で久しぶりの小田急ロマンスカーに乗って1時間ちょっとで箱根湯本に着く。『ANTEPRIMA』のクリエイティブ・ディレクターで友人の荻野いづみさんがご主人の傘寿を祝う会を開こうということで、親戚と友人に声を掛け肩の凝らない宴会を催すためであった。

 数年ぶりの強羅花壇。相変わらず美しい佇まいである。ジムで軽い運動に続き入浴と岩盤浴を重ねしっかりとお腹を空かせ、宴会場へ。黒い漆塗りの八寸の上には炙り柚香漬けの河豚と銀杏入り海老真丈、白舞茸、蓮根の小倉煮等が宝石のように光っている。続いて白味噌仕立ての湯葉豆腐と車海老のお椀、お造り、真名鰹の西京焼き、大根と鴨とつくねの炊き合わせに七輪で焼いた和牛のヒレステーキでとどめを刺した。赤出汁と蟹ご飯で冬の日本海を見て深い眠りに就いた。

11月14日(日)

 部屋で和朝食。カマスの干物、炊き合わせに味噌汁、アスパラとプチトマトのサラダ。9時半に出発し、ポーラ美術館の「Roni Horn」展に向かう。鑑賞後、美術館のカフェで柚子とタイムで香り付けした冷たい飲み物で一息。帰りは強羅から箱根登山鉄道に乗り、箱根湯本駅のパン屋でサンドとホットコーヒー。たまたまレジで目について買った箱根ロールというクリームがいっぱい入ったロールケーキは実に美味であった。

 夜は近所のジムで例の筋トレだったので、夕食は牛乳で割ったプロテインとササミを焼いたものにパンとサラダ。

11月15日(月)

 朝食は定番のローカーボ・メニュー。500ミリリットルの無調整豆乳に数種の野菜を放り込み、佐賀産のカボス1個をぎゅっと搾って攪拌するスムージー。柿(友人が贈ってくれた熊本産太秋)とリンゴとバナナとキウイのスライスフルーツの上に生乳100%のプレーンヨーグルトをたっぷりかけて小さじ1杯の蜂蜜をトッピングする。無塩アーモンド13粒。サプリと乳酸菌飲料1本。生来早起きだが、これで正午までは持つ。午後一からNHK「ラジオ深夜便」の収録があって、お昼は家でワンプレートのガパオライスに新宿のデパ地下で買ったリアルオーガニック卵を1個焼いてのせたもので、しっかりめに腹ごしらえをしてから出発。月曜の夜は翌日早朝にテレビ生放送がいつもあるからふだん通りに大人しく、お酒は控え、午後11時前に就寝。夕ご飯は焼き鮭とご飯と根野菜たっぷりのけんちん汁を自宅で作って食べた。

11月16日(火)

 午前4時50分起床。野菜スムージーと果物サラダをかき込んで日テレの車で汐留に向かう。出演者クロークにある販売機で淹れ立てのブラックコーヒー1杯をワンコインで買って飲みながら打ち合わせ。午後横浜で講演会が入っているから東京駅近くのパレスホテル1階にある『グランドキッチン』で秘書と待ち合わせをしてランチミーティング。前菜は甲殻類のジュレにのったズワイ蟹とアボカドのガトー仕立て、メインは大山鶏もも肉のグリル。全品が安定の美味しさだったが、今日はとくにバニラ風味のパンナコッタとライチのグラニテにシャインマスカットが添えてあるデザートが金賞(独断)の逸品であった。

 講演が終わった後に何カ月かぶりの友人と落ち合って、横浜でガッツリめの牛肉と赤ワインで一日の疲れをかき消した。

11月17日(水)

 午前10時、雑誌『クロワッサン』の編集者たちと早稲田の研究室で落ち合って取材。見送ってから国際文学館・村上春樹ライブラリーにある橙子猫(オレンジキャット)でパニーニと村上ブレンドのハンドドリップコーヒーを買って研究室へ持って行き一人で堪能した。今日のパニーニはスモークサーモンと玉ねぎを挟んだ「DANCE」。お三時に再度オレンジキャットに行き、ドーナッツを頬張りカフェ・ラッテを啜りながらしばし読書。

11月18日(木)

 愛知学院大学文学部創設50周年記念の講演をさせていただくべく久しぶりののぞみ号に乗り名古屋へ。往路は東京駅で買ったヴィ パレットのバルサミコと黒胡椒風味チキンと焼き野菜弁当。帰路は滅多に食べられない名古屋駅まるや本店の特上ひつまぶしを新幹線に持ち込み、熱々のお出汁を少しずつ注ぎながら幸せを身に纏った。

11月19日(金)

 昨日と打って変わって今日は人間ドックで早朝から終了する午後2時まで飲まず食わずである。遅めのお昼は病院の食堂でご褒美に煮魚定食を食らった。夜は、自宅で夫が腕をふるった牛バラの赤ワイン煮込みチーズリゾットと(やはり……)赤ワインで健康を祈念した。

【荒牧麻子先生のアドバイス】

 名古屋駅で求めた、滅多に食べられない特上ひつまぶしを、新幹線に持ち込み、熱々の出汁を少しずつ注ぎながら食したキャンベルさん。食べる姿の形容がまた素敵。口福が伝わって来る。

 さて、以前から常食し続けている豆乳、ナッツやローカーボを心がけている習慣が、活力あふれ肥らない身体を維持しているように見受けられる。

 今週は、一時的かもしれないが、コロナ禍が落ち着き、外食が続いたのだろう。御馳走の連続はコレステロールや尿酸値が気になるところだが、自身の美食の方程式に従った結果なのだろうと思われる。

 早起きが常ということは、日によっては睡眠負債も想定される。人間ドックの結果次第では、デザートの量などの調整が必要になるかもしれない。80点
(味覚のギャラリー主宰/献立評論家・管理栄養士)

ロバート キャンベル(日本文学者)
ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学。主な著書に『日本古典と感染症』『東京百年物語』など。「スッキリ」(日本テレビ系)コメンテーター。早稲田大学特命教授。

週刊新潮 2021年12月9日号掲載

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