菅原文太はヤクザの人生相談にどう答えたか 「人生は、いってみれば紙一重だよ」

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《ムショ暮らしの長い人は何を書いてもうまい》

 24歳の若いヤクザから送られてきた手紙は、一杯の酒で自分を失い、罪を犯したことを深く悔いているが、文太に意外な頼みをしている。

《最後になりましたが、わたしの趣味は、詩をつくることです。菅原先生にわたしの詩を読んでいただければ幸福です》(91年5月30日号)

 文太は彼が書いた詩を読み「感心した」と語る。

《ムショ暮らしの長い人は何を書いてもうまい。それに達筆だ。俳優として売れずにくすぶっていたオレを見て、東映に売り込んでくれた安藤昇さんにせよ(中略)安部譲二さんにせよ、名文を軽くしたためてしまう。(中略)何を書いてもシャバの人間よりもましだね。ウンチクの深い人が多いわな。(中略)アナタの場合も同じでね》(同)

 続いて文太は、大学進学のために上京したときは作家志望だったと語り、いまもって小説一本書いていない自分をいい加減だと笑う。夢を叶えていないからか、物を書き続けている人間を積極的に励ましている。

「弟子にしてください」

 また、現在服役中のある受刑者は、シャバに出たあかつきには、まずなにをすればいいか相談してきた。

《いろいろ考えてはみるのですが、本当にやりたいことはわかりません。もちろん、女もビールもパチンコもやりたいのですが、この2年間の服役中に失ったものを取り戻すには何をやればいいのかと……。菅原殿、一ファンのわたしによい知恵を》(91年9月19日号)

 文太は《オレだったら旅に出るだろうな》と即答した。この連載が始まる十数年前、文太は都会の生活を嫌い、飛騨高山に別荘を建てている。心身が解放されるためには何が大切か、本気で考えたのだろう。

《旅に出て自然に触れるのが最高じゃないのか。3年ほど前か、(中略)アラスカに近いカナダに行ったんだが、壮大な自然を眺めているだけで汚れた心ん中がきれいに洗い流される思いだった》(同)

 世界最大というドンジェク氷河を見たときには、自然の風景はこんなにも迫力があるのかと度肝を抜かれたという。

 刑務所から届く手紙のほとんどには、ヤクザ者にとって文太がいかに大きな存在であるかが書かれている。憧れが募り「弟子にしてください」と真剣に頼む者もいた。実際に暴力団と交際があり、彼らの指導でヤクザを演じた文太は、頼みになるアニキに思えたのだろう。

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