日本人はマスクを外せなくなる? コミュニケーションに起きている異変…「顔学」の第一人者が警鐘

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マスクを外すことに羞恥心を覚える可能性

 また、女性にとってはマスク着用によってメイクをする手間が省けて便利になった面もあると思いますし、他にもマスクの「メリット」としては、美男美女に見えることも挙げられます。実際、マスクを外した顔を初めて見て、想像以上に美男美女だったと感じたことがありますか? 現実はその反対で、「あれっ、思っていたより……」と、ガッカリすることのほうが多いのではないかと思います。それは情報が不完全だと、脳が自分の理想をあてはめて補完するからです。マスクで口もとが覆われている場合、理想的な口もとを脳が勝手に思い描く。「マスク美男美女」の誕生です。

 いずれにせよ、マスクをしていることがスタンダードになると、マスクを外すのが恥ずかしく感じるようになっていく。ひとたび「裸」だった顔を隠す生活になじんでしまうと、マスクを外して「素っ裸」になることに羞恥心を覚える可能性があるのです。あるいは、マスクをしていない他人の素顔を見ることに、裸体を見るような気恥ずかしさを感じるようになるかもしれません。人前でマスクを外すのは、公序良俗に反するなんてことにもなりかねない。

 こう考えてみると、マスク生活の中で何が失われているかを考えることが、いかに大切であるかが分かると思います。ポストコロナに向けて大事なことは、マスクの着用を習慣化、常態化するのではなく、今、マスクが必要な時なのか否かを適宜、主体的に判断することではないでしょうか。

 どうしてもマスクをし続ける必要があるのであれば、マスクで遊んでみるのもいいでしょう。せっかく顔の下半分がマスクによって「真っ白なキャンバス」になっている状態なのですから、そこに絵を描いたり、自己宣伝の情報を書いてみるのもいいかもしれません。

 マスクで遊ぶなどしてマスクに縛られない。大事なことは、マスクに振り回されるのではなく、マスクの呪縛から人間が自由になることだと思います。

原島 博(はらしまひろし)
東大名誉教授。1945年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、同学部助教授を経て91年に教授に。95年に設立された「日本顔学会」のメンバーとなり、会長も努めた。専門はコミュニケーション工学。著書に『情報と符号の理論』『人の顔を変えたのは何か』(ともに共著)等がある。

週刊新潮 2021年11月18日号掲載

特集「日本人はマスクを外せなくなる? 『顔学』の第一人者が警鐘 隠すと楽で『コミュニケーション』に深刻異変」より

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