任天堂・中興の祖「山内溥」 かつて「会社に必要なのはソフト体質の人間」と語った意味

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「マリオの父」が語る山内溥

 溥は、どんなゲームが面白いか、ヒットするかを嗅ぎわける嗅覚があった。

 京都で花札やトランプを製造するローカル企業にすぎなかった任天堂を世界的大企業に押し上げた功労者の一人に、専務でゲームデザイナーの宮本茂がいる。彼がデザインしたゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」は、世界一売れたゲームとしてギネスブックに登録されている。

「マリオの父」と呼ばれる宮本が、ゲームの情報サイトで山内について、こう述懐しているのを見つけた。

《「山内さんが社長だった時、どんな冒険が上手くいって、何が売れないかには独特の嗅覚がありました。山内さんが“これはいいんじゃない?”といった時は、プロトタイプ(註:基本設計)はほぼ合格点に近づいているということなのです。(中略)山内さんはソフトがどれくらい売れるかに関して、誰よりも正確な予想ができたんです。『ドンキーコング』を見せた時、他のプロジェクトを全て中止してこれに注力するよう言われました。『スーパーマリオブラザーズ』を見せた時の言葉は今も覚えています。“これはすごいね。地上と、空の上と、水中さえ行くことができる。こりゃ、みんな驚くだろうね”」(「INSIDE」2010年6月7日付)》

ビル・ゲイツが任天堂を狙う

 次世代ゲーム機として期待された「NINTENDO 64」が不発に終わり、任天堂は深刻な事態に陥った。ソニーの「PlayStation(プレイステーション)」に首位の座を明け渡し、大きく水をあけられた。マイクロソフトの「Xbox」にも追い抜かれ、屈辱の業界3位に転落した。

「任天堂はマイクロソフトに買収されるのではないか」との噂がゲーム業界を駆け巡ったのは当然の帰結だった。

 2004年8月、ドイツの経済誌が「米マイクロソフトが任天堂の買収に関心を持っている」と報じ、大騒ぎになった。

 同誌によると、マイクロソフト会長のビル・ゲイツが「任天堂の大株主の山内が保有している株式を売るというのなら、『直ぐにでも買収提案を出す』と語った」というのだ。マイクロソフトなら容易に買収できる。

 家庭用ゲーム機は、マイクロソフト、ソニー、任天堂が世界市場で三つ巴の戦いを繰り広げていた。日本市場で勝つために任天堂の買収に照準を合わせてきた、とゲーム業界のアナリストたちは噂した。

 実は、ビル・ゲイツが任天堂買収に意欲を燃やすのは、これが初めてではなかった。2000年にも買収を打診して、「6~7回交渉を持ったが、結局、まとまらなかった」(関係者)。

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