鉄道イベントに大異変 無料だったのに次々有料化…10万円でも即日完売のファン心理

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有料化へ舵を切る理由

 これまでJRや私鉄各社は車庫や車両センターといった、いわゆる車両基地を公開するイベントを年1回のペースで実施してきた。そうした車両基地の公開イベントは、親子連れや鉄道ファンが来場する。また、車両基地の公開イベントを楽しみにしている近隣住民たちも少なくない。

 駅とは異なり、鉄道の車両基地はそこに立地していても地域住民の利便性向上に寄与しない。それにもかかわらず、早朝や夜間には入れ替え作業などで騒がしくなる。いわゆる迷惑施設の一種だから、車両基地の公開イベントは鉄道事業者が地域住民に対して日頃の感謝を示すという意味も含んでいる。そうした理由もあって、車両基地の一般公開は入場無料で実施されるのが当たり前だった。

 よりプレミアムな体験ができるように内容は充実しているということだが、車両基地の無料公開イベントを有料化することは、これまでだったら考えられないトレンドでもある。

 小さな変化ではあるが、鉄道業界にとってイベントの有料化へ舵を切っている潮流は注目に値する。

 というのも、これまで多くの鉄道ブームが起きながらも鉄道業界はその波にうまく乗れず、売り上げの拡大に結びつけられなかった。

 例えば、2007年はJRグループ発足20年という節目にあたり、埼玉県さいたま市に鉄道博物館がオープンした年でもある。

 さらに、前年まで小学館のマンガ雑誌で連載されていた『鉄子の旅』が終了したものの、その反響からユーキャン新語・流行語大賞に“鉄子”がノミネートされた。2007年は、にわかに鉄道ブームが起きていた。

 そうした鉄道ブームを商機と捉え、旅行代理店が鉄道を主軸にした企画商品を開発。筆者にも大手旅行代理店からツアーやイベント企画を考えてほしいという依頼が舞い込んだほどだった。

 厳密に言えば、ツアーとイベントは異なる。ツアーの場合は臨時列車を運行し、参加者はそれに乗車。そして沿線の観光地を巡り、美味しい郷土料理を堪能する。実際に鉄道を運行し、飲食を伴うので参加費が無料になることはない。

 一方、イベントは車両基地などの関係者以外は立ち入ることができない鉄道関連施設を公開するもの。こちらは無料で実施されることが多い。有料化の兆しが出ているのは、車両基地の公開など、イベントと呼ばれる類の方だ。

 ツアーもイベントも、どちらも鉄道ファンにとっては貴重な体験になることは言うまでもない。しかし、鉄道ブームで旅行代理店と一緒に考案した商品は、蓋を開けてみれば鳴かず飛ばずに終わった。

 後に、旅行代理店の企画開発担当者たちと原因を分析したところ「鉄道ファンはお仕着せの企画ツアーには興味を示さない」「乗り鉄は、とにかく乗ることに喜びを見出すので青春18きっぷなどお得なきっぷを多用する傾向にある」という結論が導き出された。

 また、旅行代理店は私企業の宿命として利益をあげなければならない。そのため、ツアーの場合は、有名ホテルでの宿泊や地元の料理を食べるといった行程を組み込まなければならない。

 鉄道ファンは、それらを無駄な費用・時間と捉えてしまう。鉄道に金をかけることは厭わないが、鉄道以外で費消することは避けたい。そう考える鉄道ファンにとって、旅行代理店の企画商品が心を捉えるはずがなかった。

 鉄道ブーム以前にも、各地の鉄道事業者は独自に趣向を凝らしてイベント列車を運行してきた。イベント列車の運行は、沿線外からの利用者を呼び込もうとする意図がある。

 しかし、イベント列車の運行は費用対効果という面で旨味が少ない。なぜなら、1回の運行で乗車できる人数が限られているからだ。頻繁に運行して売り上げを増やすこともできるが、運転本数を増やせばイベント列車としての希少性が失われる。だから、無闇に運行本数を増やすこともできない。

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