元公安警察官は見た ピアノ女性講師から突然110番通報された某国駐日大使の受難

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指一本触れていない

「私は『大使、いったい何があったんですか?』と聞きましたが、よくわからないということでした。女性がいきなり錯乱した。そうとしか言いようがないと。大使は『女性に指一本触れていないと』と強調していました」(勝丸氏)

 勝丸氏は、改めて大使に女性の家に行った経緯を聞いてみた。

「大使は夫人を伴って東京に赴任していましたが、夫人が一時帰国した折に、魔がさしたようです。ピアノの先生をしている40代独身女性の家に招かれて、一人でノコノコ出掛けたのです。どうやら下心があったみたいです」

 女性は、手料理を振る舞ったという。

「食事中は、いい雰囲気だったそうです。ところが、なにか意見の食い違いがあったようで、女性は急に興奮して叫び出したといいます。大使が茫然としていると、女性が110番通報されてしまったといいます」

 勝丸氏は、大使に警察に通報があった以上、この件はうやむやにはできないと伝えた。

「大使に『捜査に協力していただく必要があります。なにがあったのか警察官に説明して、調書を作成させていただかないと、この件は終わりにできません』と伝えました。しかし、『それは面倒だな……』と言って調書の作成を渋りました」

 大使が渋ったのは、このことが夫人に知られるのを恐れたからだった。結局、大使は後日、調書作成に応じることになった。勝丸氏は、都内のホテルで大使と会ったという。

「大使から、携帯電話の番号が書かれたメモを渡されました。大使は『妻にだけは知られたくはないんだ。この件に関する連絡はこちらの携帯にかけるようにしてくれ。絶対に大使館の受付にはかけないように』と念を押されました」

 その後、110番した女性を調べたところ、意外な事実が判明した。

「女性は、精神を患っていました。だからいきなり興奮して警察沙汰にしたのでしょう。女性は『何があったのか言いたくない』と話すだけでした。結局、被害届も提出しないと言明したので、一件落着となりました」

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

2021年10月25日掲載

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