職質に徹底拒否・徹底抗戦するのに必要な知識 元警察官作家による職務質問講座(第3回/全4回)

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 街中で警察官に職務質問されたら、「素直に応じるのが最適解」――これが前回ご紹介した元警察官の作家、古野まほろ氏のアドバイスだった。古野氏は警察大学校において職務質問担当部門の教授を務めたこともあるというキャリアの持ち主。

 が、その古野氏が徹底拒否・徹底抗戦をすべきだという「たった一つの例外」が、違法な職務質問を掛けられた場合である。いきなり肉体的に接触してきたり、断りなく持ち物検査をしたり、といった行為がそれにあたる。

 しかし、徹底拒否・徹底抗戦といっても何をどうすればいいのか。「元警察官による善良な市民のための職務質問講座」、第3回ではこのテーマについて古野氏に解説をしてもらおう。

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徹底拒否・徹底抗戦すべき場合

 まずは古野氏の新著『職務質問』から、「徹底拒否・徹底抗戦すべき場合」についての記述を引用してみよう。

「たった一つ、読者の方が徹底拒否・徹底抗戦すべき場合があります。

 それは端的には、『実力行使をされたとき』です。

 具体的には、(1)いきなり直接接触・物理的接触・肉弾的接触の『ガチ接触』をされたとき。それが〈停止〉に伴う場合も〈所持品検査〉に伴う場合も〈同行〉に伴う場合もあるでしょうが、身体のどの箇所であろうと、またどのような状況であろうと、それが職務質問だと言うのなら(既に逮捕行為等に移行しているときは別論です)、『ガチ接触』はあり得ません。(略)

 あるいは具体的には、(2)いきなり鞄等を取り上げられたり開けられたりしたとき。同様に、いきなり服のポケット等に手を突っ込まれたり在中物を採り出されたりしたとき。こうした『ヤミ捜索』も許されません。重ねて、それは既に強制活動ですから職務質問の域を超えています。裁判官の出す捜索令状が無ければ絶対に許されないことです。

 はたまた具体的には、(3)先の『ガチ接触』のレベルすら超越して、PC(パトカー)に押し込められようとしたとき。同様に、いきなりいわゆるサンドイッチで身体の両側を抱えられ、ズルズルと移動させられたとき。同様に、いきなり多数の──よくある数字としては4、5名の──警察官に包囲され、圧迫されながら移動を強いられたとき。こうした『無承諾連行』も許されません。既にいきなりの『ガチ接触』すら狂気の沙汰ですが、『無承諾連行』となるとそれを過ぎ越して、目の前の制服姿の輩(やから)が本当に警察官であるのか、強く疑われるレベルです。」

冷静に騒ごう

 もちろん通常はこんな強引な職質は行われない。しかし一部に遵法意識に欠ける「不良」警察官がいて、そういう振る舞いをする可能性は否定できないという。では不幸にも、こういう理不尽な目に遭った時にどうすればよいか。古野氏はこう語る。

「まず、絶対に任意に協力しない旨を告げること、絶対に承諾しない旨を告げることです。

 明確に、言語と動作と態度で伝えてください。目撃者が期待できれば大いにアピールしましょう。

 ヤミ捜索型の所持品検査が始まってしまっているときも、『いったんカバンを閉じてください』 『いったん返してください』『その上でお話を聴いて判断します』等と明確に主張しましょう。

 目撃者が期待できるのならば、できるだけ『冷静に』騒ぎにしましょう。

 間違ってもご自分のほうから『実力行使』に出るようなことは避けるべきです。公務執行妨害の現行犯、といったことで逮捕されるリスクもありますから。

 公憤・興奮のまま騒ぎにするのではなく、周囲に認知してもらう、周囲に助けてもらうのが目的ですから、あくまでも冷静に騒ぐよう心掛けてください。難しいとは思いますが……。

 また、違法な職質については、後々のため、スマホ等で動画撮影・録音もすべきです。なお一般論として、警察官に違法行為が無いときにまでスマホ等で撮影・録音することは、詳細は別に論じましたが、個人的にはお勧めしません。詳細を措(お)けば、撮影・録音をしたところで事態の早期解決につながるわけではない上、肖像権などの複雑な問題があるからです。ですので、いざ撮影・録音をするからには、それは最終的には訴訟のための証拠保全、少なくとも苦情申出のための証拠保全であるべきです。警察官の違法行為がないときの単なるけん制や煽りではなく、警察官の違法行為が疑われるときの自衛措置であるべきです。その必死さを後々、裁判所などに分かってもらえるようにすることが目的です」

意味の無い抗戦とは

 ネット上では職質を受けた際の「対処法」として、撮影・録音を推奨する向きもいるそうだが、通常であれば意味がない、というのがかつて職務質問をしていた「プロ」としての意見である。

「他にもネット上で見かけるアドバイスとしては、警察官に『任意ですか? 強制ですか?』と聞くべきだ、といったものがあります。これも避けた方がよいと思います。というか、聞いても別に問題はありませんが、意味もありません。

 聞いたところで警察官をけん制することにはまったくつながりません。聞く意味があるとすれば、最初に述べたような違法な接触、持ち物検査などをしてきた際に、『それは任意活動ではありませんよね?』と問うといったケースでしょうか。

 また『警察手帳を見せてください』というのも、『任意ですか?』同様に意味がないのでお勧めしません。こう言っても相手へのけん制にはなりません。

『弁護士を呼ぶぞ』『弁護士に電話する』というのも、自由ですが、時間的コストの観点からはお勧めはしかねます。金銭的コストの観点からも同様です。

 というのも、まっとうな警察官であれば、そう言われてもひるんだり、諦めたりすることはないからです。時と場合によっては『不審性が増した』と判断することがあるかもしれませんし、『これで現場から逃げることは無くなったな』と安堵することがあるかもしれません。場合によっては警察官が弁護士さんをお迎えするために他の警察官やパトカーを呼ぶことになるかもしれません。なら現場はむしろ盛り上がってしまいます。

 早く解放されて現場から離脱することを望むのであれば、弁護士を呼ぶ、といったカードは予想されるほど有効ではありません。それどころか、職質の舞台が路上から警察署に移ってしまう可能性だって高まります。弁護士さんのおもてなしが必要になりますから。

 また、私の聞く限りでは電話口で対応してくれる弁護士さんは一定数存在しますが、現場まで足を運んでくれる方はあまりいらっしゃらないそうです」

 ここで述べているのは連載タイトルにもある通り、「善良な市民」つまり何ら後ろ暗い点が無い方へのアドバイスである。

 違法なものを持っている、指名手配中といった場合はこの限りではない。が、そういう人であっても、あるいはそういう人こそ素直に応じるべきなのは言うまでもないだろう。妙に攻撃的な言動に出たり、一目散に逃げたりしたらそれはそれで怪しさが増すだけなのだから。

古野まほろ
東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書の著書多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事、小説の著書多数。

デイリー新潮編集部

2021年10月21日掲載

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