刑事の書類仕事は“超絶的に”面倒くさいもの 元警察庁キャリアの作家が解説

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書類、書類、また書類

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉巡査長、あるいは英国の人気小説「フロスト」シリーズのフロスト警部。型破りな彼らは、よく上司から書類仕事の不備を怒られる。

 一方で、日本の刑事ドラマの主人公たちがそういうことで怒られている場面はあまり見られない。優秀な彼らは颯爽と現場に現れ、鮮やかな推理と見事な行動力で犯人を捕まえる。そこでドラマは終わるのだ。

 しかし、実際の刑事の仕事でデスクワークはかなりの比重を占めている。警察庁キャリア出身の作家、古野まほろ氏は近著『警察官白書』の中で、「書類、書類、また書類」という刑事に必要な煩瑣(はんさ)な書類仕事と、その大変さを語っている(以下、引用は同書より)。

「部外の方に『書類、書類、また書類』と言っていても、具体的なイメージは作っていただけないでしょう。ドラマのお陰で、刑事の仕事は断崖絶壁の上で犯人の自白を聞いてジ・エンド、あとはタイトルロール――というイメージも強いですから(現場の刑事が警察エンタメに対して必ず漏らす愚痴の1つは、『ケッ、そっからが本当の仕事だってのによ』『あんなんで終われたら苦労はねえや』といったものです……)」

 実際にどのくらい「書類、書類、また書類」なのか。同書ではごく一般的な、丑三(うしみ)つ時(どき)に、現金と物品でトータル20万円ほどを盗んだという事案の場合、どのくらいの書類が必要かが示されている。その膨大さは、部外者には想像もつかないものなのだ。それぞれのプロセスと、そのときに必要な書類を見てみよう(以下、とても細かいので、ご面倒な方はざっとご覧になって雰囲気だけ掴むことをお勧めする)。

想像を絶する書類量

 以下の「A~K」は捜査のそれぞれのステップで、「 」内が、その時々に必要な書類である。

A 空き巣被害者から訴出があった
 「被害届」「被害者調書」

B 被害現場の捜査をした
 「実況見分調書」(現場見取図、現場写真等を添付)、「捜査報告書」

C 売りさばかれた盗品が見つかった
 「捜査報告書」(被害品発見捜査報告書)、「供述調書」

D 盗品を警察で預かった
 「任意提出書」「領置調書」

E 被害者にもその盗品を確認してもらった
 「被害者調書」

F 捜査の結果、被疑者を割り出した
 「捜査報告書」(容疑者発見捜査報告書)、「参考人調書」(写真面割等)、指紋・微物・防カメ捜査等をへて「捜査報告書」(被疑者割出し捜査報告書)、被疑者の行動確認等をへて「捜査報告書」(被疑者所在捜査報告書)、所要のステップで「捜査関係事項照会書」

G 被疑者が『罪を犯したことを疑うに足る相当な理由』をプレゼンする
 「逮捕状請求書」(これまでの捜査をプレゼンできる疎明資料を添付)、同時にガサを掛けるときは「捜索差押許可状請求書」(ブツが確実にあること等をプレゼンできる疎明資料を添付)

H 被疑者を逮捕した
 「通常逮捕手続書」、逮捕後に引致して「弁解録取書」、逮捕現場で無令状ガサをしたなら「捜索差押調書」「押収品目録」「押収品目録交付書」、Gで捜索差押許可状をとっているときはその「捜索差押調書」「押収品目録」「押収品目録交付書」

I 被害者にガサで押さえたブツを見てもらった
 「被害者調書」

J 逮捕した被疑者について捜査をした
 取調べをして「被疑者調書」、必要なブツを提出させて「任意提出書」「領置調書」、提出されたブツ等について「鑑定嘱託書」「実況見分調書」、アリバイ捜査等の裏付けをしてくれた人から「答申書」、被疑者の家族等から「参考人供述調書」、犯行の実演をさせてみたなどのときは「再現見分調書」、さらに必要ならば追い討ちガサで「捜索差押許可状請求書」「捜索差押調書」「押収品目録」「押収品目録交付書」、またブツが増えれば「鑑定嘱託書」「実況見分調書」

K 検事にプレゼンできる段階である/タイムリミットである
 「総括報告書」(鑑識関係資料も作成)、「送致書」「証拠金品総目録」「書類目録」

 あくまでも単純な(かつ被害金額もそう大きくない)空き巣の事案でもこれだけの膨大な書類を作成する必要がある。しかも、これは「捜査が極めて順調に進んだケース」で、実際にはこれ以外の書類も必要になる。また、一つ一つの書類はA4一枚紙ではとても済まない。

 古野氏の経験した事案では、ある知能犯事件で、「通帳だけを見れば犯人も犯行もまず明らか」という事件の証明に、手押しの台車・2台山積み分の捜査書類を作成したことがあるという。

 警察官は、捜査を行いながらも、「デスクワークの達人」というスキルが必須である。
「人を逮捕したり、罰したりするというのは、それだけ重いことです」と古野氏も本書で書いている。

 もちろん1人でやるわけではないが、想像を絶するほどの手間がかかるのだ。
両さんやフロスト警部が逃げ出したくなる気持ちもわかるというものである。

デイリー新潮編集部

2018年7月4日掲載