元公安警察官は見た 某国の駐日大使館に亡命申請して却下された“大佐”の末路

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、ある国の駐日大使館に亡命を申請した中東の国の大佐について聞いた。

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 日本でも大使館に亡命するケースは、結構頻繁にあるという。大使館をビザ申請のために訪れ、そのまま居つくこともあるそうだ。

「私の携帯電話に某国の駐日大使館の職員から『至急連絡が欲しい』とメッセージがありました」

 と語るのは、勝丸氏。当時、同氏は公安外事1課の公館連絡担当班に配属され、大使館や総領事館との連絡・調整が主な任務であった。早速、その大使館へ連絡した。

「中東系とみられる男性が大使館を訪れ、亡命を希望したというのです。大使館は本国と協議した結果、受け入れを拒否しましたが、男性は館内に居座って退去を拒み続けていたそうです」

国軍の大佐

 日本の刑法では、退去を拒む行為は不退去罪にあたる。大使館はウィーン条約によって不可侵だが、大使の同意があれば違法行為を取り締まることができる。

「しかし、相手が亡命を希望する人物となるとまた話が違ってきます。亡命者は裏切り者として祖国から命を狙われることがあり、また政治亡命の受け入れは国家間の軋轢を産む可能性がるので、警視総監にまで情報を上げることになっています」

 勝丸氏は、公安部の上司に報告し、その大使館を管轄する警察署の捜査員十数人と大使館に急行した。

「亡命を希望する男性は、外来者用の椅子に座っていました。40~50代で、黒っぽいスーツを着ていました。英語で『日本の警察です。あなたがここにいる行為は日本の法律で犯罪になりますよ』と話しかけても、返事はありませんでした」

 勝丸氏は、男性の所持品を検査することにした。

「凶器を持っていたら、こちらが危険にさらされますし、その場で自殺する可能性があるからです。『体に触りますよ』と言って慎重に検査しました」

 凶器はなかった。大使館近くにある交番に連れて行き身元を確認したという。

「男性は公用旅券を所持しており、軍の大佐でした。これはただ事ではないと思いました。大佐の国では、数百人が命を落とすクーデター未遂事件があり、政府は鎮圧後、クーデターの首謀者たちが師と仰ぐ某国にいるバラン師(仮名)というイスラム教の指導者が事件の背後にいると断定。バラン師支持者の一掃に乗り出していました」

 大佐に事情聴取を行うと、少しずつ語り始めたという。勝丸氏は、彼の警戒心を解くために、同席していた署員と通訳に退席してもらい、1対1の対話に切り換えた。

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