「財務次官」異例の寄稿 なぜ今だったのか? その狙いは何だったのか?

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財務省への反発しか生まない悪手

 財政再建論について省内随一の原理主義者として知られ、2005年には『決断!待ったなしの日本財政危機―平成の子どもたちの未来のために』を上梓している。

「かなりのナルシストで上昇志向の極めて強い男でした。次官になったら皆が耳を傾けてくれるだろうから、目立つことをやりたいと考えていたのではないでしょうか」

 と財務省OBは話し、こう突き放す。

「議論を喚起するのは悪いことではありませんが、注目を浴びるだろう衆院選前のタイミングを狙って持論を展開し、あろうことか首相の政策を批判するのは役人のやることではないですね。そのうえ、コロナ禍で苦しい生活を強いられている人たちが少なくないのに財政再建を訴えたところで財務省への反発しか生まない。悪手という他ありません」

 なぜ今だったのかについてはこのOBが言うように、最も注目されるからというのは腑に落ちる。では、その意図は何だったのだろうか? 政治部デスクの解説。

「岸田政権は嶋田隆・元経産次官を筆頭の首相秘書官に起用しました。首相とは開成高校と同窓なのですが、次官経験者がこの職に就くのは極めて異例のことです。さらに、首相が提唱する『新たな資本主義』を検討する会議の事務局長には経産官僚の新原浩朗内閣審議官を充てました。安倍政権時代から重用されてきた人物で、要するに経産省への偏重と財務省の軽視が形の上では見て取れます」

財務省の警戒感

 デスクが続ける。

「ついでに言うと、甘利明幹事長も経産相経験者で商工族の筆頭です。前任の菅さんの時は財務省と総務省の両方から人材を登用しましたが、岸田さんの人事は経産省寄りに映ります。矢野次官がどこまで意識していたかはよくわかりませんが、財務省としてはそういった状況に警戒が強まっているようです。ただ、仮にそれが今回の寄稿の動機になっているとしても、発信力のある高市さんらがメディアですぐさま否定しましたから、国民にその真意が届くかというと難しいように思います」

 霞ヶ関内の論文についての評価については、

「評価する声はもちろんありますが、バラマキと批判する割には煽るだけで、具体的な分析が出ていないことに不満を持つ意見は多かったですね。どれくらいバラマいたら財政破綻の可能性が上がるのか、アメリカは利上げしようとしているわけだけどそれがどう影響するのか、財務省内でシミュレートしているならそれを出すべきでは? というツッコミはもっともだと思いましたが……」

 乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負は水泡に帰すか、それとも――。

デイリー新潮取材班

2021年10月14日掲載

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