コロナ感染者急減でも感染症対策の見直しは道半ば 「岸田4本柱」より先にやるべきことは

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劇的に改善した感染状況

 10月6日、サッカーJリーグの試合会場で、観客制限緩和に向けた国内初の「ワクチン・検査パッケージ」と呼ばれる実証実験が行われた。新型コロナウイルスワクチンを2回接種済みであることや、検査で陰性だったことを証明する「ワクチン接種済証」または「PCR検査陰性証明」を活用してチケットが販売され、購入した人は一般客とは別に設けられた1800席の専用エリアで試合を観戦した。

 10月5日、国土交通大臣に就任した斉藤鉄夫氏は「Go To トラベル事業の再開のタイミングを検討する」と述べた。観光に関する実証試験も、8日から始まった。

 たしかに、足元の新型コロナウイルスの感染状況は劇的に改善している。東京都は6日、新型コロナウイルス感染者向けに確保している病床数を、現在の6651床から4000床に縮小する方針を固めた。

 だが、メデイアに登場する専門家たちは、異口同音に「油断すれば再び感染が拡大する。冬に到来する可能性が高い『第6波』への備えが不可欠だ」と警告している。その一方、「8月下旬からなぜ感染者数が急減したのか」との疑問に対する回答は説得力に欠ける。専門家が挙げる主な理由はワクチン接種の進捗だが、今後接種率がさらに上がれば「第5波」のような感染爆発が起きる確率は下がるのではないだろうか。

「エラーカタストロフの限界」

 今年の日本の感染のピークは1月、5月、8月下旬だった。従来株よりも感染力の強いアルファ株や、若年層も重症化させるデルタ株が国内に流入したことで引き起こされたと考えられている。米国でも、「原因はわかっていないが、新型コロナウイルスは初めて確認された2019年末から2カ月周期で拡大と収縮を繰り返すという不思議なサイクルがある」と指摘され始めている(10月4日付ニューヨーク・タイムズ)。

 筆者は以前のコラムで「エラーカタストロフの限界」という理論を紹介した。エラーカタストロフの限界とは、1971年にドイツの進化生物学者であるアイゲンが提唱したもので、「ウイルスの増殖のスピードがある一定の閾値(いきち)を超えるとそのウイルスは生存に必要な遺伝子までも壊してしまい、そのせいで自滅する」という仮説だ。50年前の説が注目されるようになったのは、デルタ株の出現で最悪の事態に陥ったインドで十分な対策が採られなかったのにもかかわらず急激に感染者が減少したことがきっかけだ。

 児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター名誉教授は今年8月に東京大学アイソトープ総合センターのホームページで公表した論文の中で、新型コロナウイルスの覆製エラーの修復システム(ポリメレースという酵素)に変異が起き、多様な変異株が出現したことを説明している。今後日本で流行しているデルタ株のゲノム解析が進めば、感染拡大の過程で生じた変異が閾値を超えたことで自滅したことが明らかになるかもしれない。

 児玉氏は第6波の襲来を懸念しているが、それを引き起こす新たな変異株の候補は今のところ見つかっていない。ワクチンが効きづらい特徴を持つミュー株や強い感染力とワクチンへの抵抗力を併せ持つラムダ株などが確認されているものの、デルタ株に置きかわるほどの勢いはないようだ。

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