パリ郊外で農園経営25年の山下朝史さん 値段10倍の野菜を高級レストランが求める理由

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3つのやりたいこと

 山下さんには、今後やりたいことが3つあるといいます。

「ひとつめは、『山下水産』です。日本の技術である活け締めで処理した鮮度の良い魚を取引先のレストランに販売したい。野菜を作っていると『ワサビはつくってないの?」と聞かれることが多いのですが、ワサビをつける良い魚がフランスにあまりない。これを解決したいと思っています。2つ目は、刃物の研ぎ工房を持ちたい。日本の刃物の切れ味のよさはこちらでも有名です。フランスでは、ステーキから滴る血を嫌って焼き加減をウェルダンにする人がいるのですが、日本の技術で研いだナイフなら、しっとりと焼き上げたステーキをスッと切ることができます」

 実際、フランスのレストランでも、日本製の包丁を持つ料理人はよく見かけます。3つ目も食や飲食にまつわるアイデアかと思いきや、意外にも「教育事業」という答えが返ってきました。

「これは実現に向かって動き始めているのですが、パリに日本人高校を設立したい。現在は中等部までしかないので、フランスにいながら日本の高校卒業資格を取得できる道筋をつくりたいのです。フランスで育った日本人の子どもたちは、将来の日本とフランスをつなぐ架け橋となる存在。彼らが日本を好きになり、橋渡しをしたいと思うようになるため、つまり日本のためにも一貫教育の機会を提供することは不可欠だと思っています」

 次世代を育成するという意味では、山下さんが2019年に開いたこんな催しもそのひとつでしょう。経済協力開発機構(OECD)の日本大使の公邸を会場に、日本人シェフを対象に開かれた「山下農園」の料理コンクールです。優勝したシェフは星付きレストランすら入手困難な山下農園の野菜を仕入れる権利がもらえるため、フランス中から注目を集める催しになりました。

「パリに130軒ほどあるミシュラン星付きレストランのうち、約20軒では日本人がシェフ(料理長)を務めています。彼らにもどんどん活躍してフランス文化に貢献してほしいと思っています。日本はチームワークを重んじますが、フランスは各々の個性を前面に出し、自分の持つストーリーを語れることが大事。そんなフランスの料理界でオピニオンリーダーになれる日本人シェフを育てたいのです」

 自身の経験や知見を伝えることで、日本人シェフ達の活躍を後押しするというのです。シェフ達がフランス料理界に溶け込むことで文化交流がさらに進み、よりよい日仏関係に寄与することになります。

 日本人シェフの後押しをするこのコンクールは、来年もふたたび開催する予定だそうです。

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