夫が子供を「連れ去り」 面会交流でしか我が子に会えない母親の「月1回4時間の子育て」

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親としてどうしても伝えたいこと

「わずかな時間の中で、母親として何を伝えられるかをいつも考えています」

 子供たちと会う日は、ファミリーレストランで食事をしながら話をしたり、一緒に買い物をしたりと、ありきたりな時間を過ごす。だが、その中で、佳寿子さんは意識して、生きていく上で大切だと思うことを真剣に語りかける時間を設けている。書店での一コマは、自分の力で人生を切り開いていってほしいという佳寿子さんの思いが溢れ出たシーンだった。

 長男が14歳になったときはこう諭した。「これからは悪いことをしたら刑事責任能力があると見なされ、処罰されるのよ。そういう年齢になったのよ。だから、自分の行動に責任をもつように」。

 コロナ禍で、長男の部活動の大会が軒並み中止となり、先輩が部活を辞めてしまったという話を聞いたときは、「たぶん来年も同じような状況だろうね。そのとき君はどんな選択をする? 自分がどんな気持ちで、どんな目的で部活を始めたのかよく考えてごらん」と、継続することの大切さを伝えた。

「学校に好きな子いるの? という話から、LGBTについて話し合ったこともあります。君が誰を好きになっても堂々とママのところに連れてきなさい、と言いました」

 次第に制限された子育てならではのメリットも感じられるようになってきた。一緒に暮らしていたら、互いに照れ臭かったり、反抗期で反発されたりして話しにくいようなことも、特別な時間だからこそ話しやすくなる。子供たちも素直に聞いてくれている。

子供に誇れる生き方をしたい

 母親として子供に誇れる生き方がしたいとも思い始めた。

「調停や裁判の情報を集めるためにネットで検索するうち、こんな理不尽な経験をしているのは私だけじゃないんだと知りました。そして、一方の親に子供を連れ去られたり、自分が家から追い出されたりして子供に会えなくなる背景には、法律やその運用の問題があることにも気づいた。そして、それは親が子供に会えなくて悲しいという以前に、子供の権利を損ねていることにも思い至りました」

 子供は、双方の親に愛されて育つ権利がある。それを一方の親が勝手に奪ってはいけないし、司法はそんな親の勝手を止めるべきだ。佳寿子さんは、まずはこの問題を広く世間に知ってもらうことから始めたいと考え、同じような境遇の仲間と一緒に市議会に陳情したりする啓蒙活動を始めた。

「少しでも社会を変えることができるなら。子供にも『ママ、頑張っているよ』と胸を張って会うことができると思って」

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