日本の「刃物文化」は世界に広がりつつある――遠藤浩彰(貝印グループ代表取締役社長兼COO)【佐藤優の頂上対決】

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野鍛冶の精神とともに

佐藤 貝印の包丁は非常によく切れるし、長持ちします。これがロシアあたりだと、半年に1度くらいは買い換えなくてはならない。イギリスでもいい包丁は値が張ります。日本の刃物は安価なのに品質がいい。

遠藤 刃物の名産地は、イギリスのシェフィールドとドイツのゾーリンゲン、そして私どもの発祥の地である岐阜県の関を加えて3S(スリーエス)と呼ばれています。シェフィールドは一度衰退して学園都市に生まれ変わっていますが、ゾーリンゲンや関は、いまも刃物作りの伝統が脈々と息づいています。

佐藤 関は日本刀ですね。

遠藤 はい、関の日本刀作りは鎌倉時代に遡ります。長良川の水、自生する赤松、そして焼き入れに使う土が適していたといわれています。それが明治時代に廃刀令が出されて、日本刀が流通しなくなった。そこで身の回りの刃物や包丁、農作業の鍬などを作るようになりました。それを「野鍛冶」と言いますが、いろいろなお客様の要望や、使う方の特性や癖を一つひとつお聞きしながら、商品に反映させてきたのです。

佐藤 関市にはいまも90社近い刃物メーカーがあります。貝印の圧倒的な強さの秘密はどこにあるのでしょうか。

遠藤 まず、その「野鍛冶の精神」を大切にして、お客様の要望に合ったものを作っていることですね。そして私ども独自の考えとして、DUPSを掲げています。Dはデザイン、Uはユニーク、Pはパテント、そしてSはセーフティ&ストーリーです。しっかりした品質の製品を作り、それをデザインの中に落とし込む。そこには貝印らしいユニークさがあり、それを知財として保護する。そしてそれらが一連の物語としてお客様に伝わることが大切だと考えています。

佐藤 確かに貝印の製品はデザインがいい。

遠藤 セーフティについて言うと、私どもは「人に優しい刃物」と表現しています。ちょっと手を切った場合でも、切れ味のいい刃物であれば傷口がキレイなので塞がりやすい。また切れ味の悪い包丁なら力を入れて切らなければなりませんが、いい包丁はすっと切れて間違いが起きにくい。だから切れ味のいい刃物は、結果的に優しい刃物になります。

佐藤 ホテルのアメニティ用カミソリも、外国だと髭を剃るだけで血だらけになってしまうことがあります。その点でも、日本の刃物は切れ味がよく、そうしたことが起きない。

遠藤 刃物を表現する時には、何気なく「切れ味」と言いますね。刃物には味があるのです。どう料理するかで、各地の刃物に違いが出てくる。日本はやはり繊細な切れ味が特徴です。一方、ゾーリンゲンだと堅牢性というか、質実剛健のイメージがありますね。

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