元サッカー日本代表・鈴木啓太が「うんちバンク」を創設? アスリートの便を分析してサプリ開発

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ミッションは“検体”集め

「菌を鍛えて金メダル」

 リオ・デ・ジャネイロ・オリンピックの時期だったので、起業のキャッチフレーズは菌と金を掛けた。

「最初はアスリートを対象に考えました。さまざまな競技の選手のうんちを集めて、分析して、パフォーマンスを高めるための腸内フローラを明確にして、食生活や生活習慣をアドバイスするビジネスです」

 そして、検体提供者の第1号がラグビーのプレーヤー、松島幸太朗選手だったというわけだ。

「今は検体のキットがありますが、最初は自前のガラス瓶に入れてもらいました。AuBをつくったものの、現役選手だったから、代表になるつもりはなく、ただ、アスリート人脈はあったので、僕がさまざまな競技者のうんちを集めることになりました。松島選手のほかにも、プロ野球ヤクルトスワローズの捕手、嶋基宏選手、陸上800メートル走元日本記録保持者の横田真人選手、スケルトン元オリンピック代表の小口貴子選手など、さまざまな競技のアスリートに検体をお願いしました」

 アスリートはそれ以外の人と比べると基本的に健康だ。身体が強く、身体能力も高い。だから腸内細菌を分析して傾向がわかれば、そこに近づけて、より強い身体にできるのではないか。そう考えた。しかし、検体数が少ない時期にはなかなか傾向が見えてこない。

 15年のシーズンで引退した後、鈴木さんはAuBの代表取締役に就く。

「千人分の検体を集めることを自分のミッションにしました」

“検体”というと響きはいいが、鈴木さんが集めるのは、うんちだ。最初は会う相手みんなに驚かれた。それでも、知り合いのアスリートはもちろん、スポーツ選手に会う度にうんちの提供を頼む。

「大学や実業団のチームに相談して、一度にたくさんの検体を集めるなどの工夫をしました」

 鈴木さんがアスリートのうんちを求めていることが口コミや報道で広くアナウンスされると、各競技の監督やスタッフから提供を申し出てくれるケースも増えた。自然にうんちが集まるシステムもできてきた。

「駅伝チームには、大会の1カ月前、1週間前、2日前、1週間後の検体を採取、分析をお願いしたこともありました。みなさんのおかげで、4年弱で目標だった選手の検体千個を28種類の競技から集めることができたのです」

 AuBの初期は、腸内の検体の分析を内部で行っていたが、利便性やコストを考慮し、アウトソースするようにした。こうして、うんちのサンプル数、分析数が増え、すぐれたアスリートの腸内フローラに共通するものが少しずつわかってきた。

「まず多様性です。腸内には千種類、100兆個の腸内細菌がいるといわれていますが、アスリートたちの腸内フローラはバリエーションが豊富でした。そしてアスリートの腸に共通していたのが、酪酸が多いことでした」

 酪酸は腸の中に棲む短鎖脂肪酸の一つ。腸上皮細胞のエネルギー源で、免疫力をコントロールするといわれている。

「酪酸を作り出す酪酸菌は一般的に腸内細菌全体の5%といわれています。ところがアスリートのうんちを調べると10%以上ある選手が多く、陸上の長距離ランナーには20%ある人もいて、驚きました」

 発見もあった。

「アスリートの腸内フローラから新種のビフィズス菌が見つかり、20年に国際特許を申請しました」

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