マスク生活で顔の下半分はどんどん老いる? 「ほうれい線」「二重あご」を防ぐ顔トレーニング

ライフ

  • ブックマーク

Advertisement

 女性なら口紅を塗らず買い物に出かけ、男性なら無精ひげのまま出社する。マスク必須の生活を送るうちに、私たちは“手抜き”を覚えた。どうせ見えないのだからと。しかし、布で覆われた口もとでは恐るべき事態が進行し……。「マスク老け」を防ぐ実践法を紹介。

 ***

マスク生活が始まって1年半。顔の下半分をマスクで覆わなければならない生活を余儀なくされ、呼吸がしにくいなど、みなさん何かと不便を感じていると思いますが、実はその弊害は息苦しさや暑苦しさに留まりません。

 今、顔の下半分と言いましたが、そこには半分どころか、顔全体の筋肉の7割が集まっているのです。筋肉の面から考えると、顔の下半分こそが重要なのですが、私たちは今、そこをすっぽりマスクで覆い隠して暮らしています。そのことによる弊害は美容、健康、そして心の健康と、さまざまなところで生じています。マスクによる老化、「マスク老け」です。

 このマスク老けを防ぐために、顔のトレーニング=「顔トレ」をすること、特に「モダイオラスほぐし」をお勧めしています。モダイオラス、それは顔のさまざまな筋肉が集まるいわば筋肉のターミナル駅、顔面の東京駅とでも言うべき、とても重要な部位なのです。

〈歯科医師である石井さとこさんは、歯のホワイトニングを日本に広めたことで知られるが、「歯」にとどまらず、「口もと」のケアが美容や健康に大きな影響を与えることに着目。口もとの筋肉の体操などを提唱する「口もと美容スペシャリスト」としても活動し、近刊『マスクしたまま30秒!! マスク老け撃退顔トレ』が話題に。石井さんのもとには美を追求する女優やアナウンサーなどが通っているという。

 そんな彼女が勧めるモダイオラスほぐしの解説に入る前に、マスク生活がどれだけ私たちにとって脅威となっているのか、改めて石井さんが説明する。〉

 マスク生活の弊害はどのようにして生じるのか。それを考えるには、コロナ以前の暮らしを思い返してみると分かりやすいのではないかと思います。

 マスク無しで生活していた頃、私たちはそれほど自覚していなかったものの、実はふとした瞬間にさまざまに表情を変化させていました。

 例えば何気なく駅で電車を待っている時でも、人様の前であまりだらしない顔はできないと、自然と口もとを引き締めたりしていたのではないかと思います。あるいは人と笑顔で接する時も、目だけではなく口角を思い切り上げて、より好感が伝わるような笑顔を作っていたのではないでしょうか。

 このように、コロナ前は無意識に近い形で表情を動かしていたわけですが、マスク生活に入り、私たちは気が付かないうちにそうしたことをしなくなっています。どうせ顔の下半分は見えないのだからと、「笑顔を作る」といったことを普段の生活の中でほとんどしなくなっているのが現状です。言ってみれば、「無意識のうちの無表情化」です。

 この無表情化により、美容面では、主に女性から、ほうれい線が深くなってしまったとか、口角を上手く上げられなくなって表情が作りにくくなったとか、二重あごやたるみが目立つようになったという悩みをよく聞きます。その原因は、無表情化が進み、顔の運動が制限されたことで、表情筋自体が緩んだことにあります。

舌の運動不足

 なかでも制限されているのが口もとの運動です。マスクで蓋をされている「下顔面(かがんめん)」の中で最も大きな筋肉が口輪筋。口の周りをぐるっと囲んでいる筋肉で、口を開閉したり、唇を動かす時に使う重要な筋肉です。マスク生活でこの大きな筋肉を動かす機会が減ったことにより、顔や首など、全体の表情筋が運動不足になっている。そのため、二重あごやたるみが進行してしまうのです。

 それに加えて、自粛生活のなかで会話不足が生じています。リモート作業により、LINEやメールでのやり取りが増え、会話する機会が極端に減ったという方も多いのではないでしょうか。つまり、舌筋の運動不足です。このため、舌が上手く動かせず、舌が回らなくなり、滑舌が悪くなったという相談も増えています。

 実際、リモート作業で一日中家にいて誰とも話さず、気が付けば夕方や夜にスーパーに買い物に行った時、レジの人と話したのがその日初めての会話だった――なんてことが増えているのではないでしょうか。そんな時、舌が回らず、言いたいことが上手く言えなかったという経験がある方も少なくないと思います。

 日本語は、英語の「R」と「L」のように舌を大きく動かさなくても喋れる易しい言語で、口先だけで話しても伝わりやすい。もともと、それほど口の筋肉を動かさずに話せる言語であるところに、マスクとリモートが重なってさらに口もとを動かさない生活が続いているため、舌筋の衰えが進んでしまっているのです。

 スーパーでも職場でも、相手の言っていることがよく聞き取れず、「はい?」「んっ?」と、聞き返す場面が増えていませんか? その聞き取りづらさは、マスクで声がくぐもっているせいだけではなく、舌筋の運動不足により、滑舌が悪くなっていることが大きく影響しているのです。

 舌はノドのほうまでつながっている意外と重い筋肉で、約200グラム、ステーキでいえば女性が食べるとお腹がいっぱいになるくらいの重さがあります。筋肉ですから使わないと衰え、舌の位置が落ちてくる。これを「落ちベロ」と言います。舌がしっかりと上あごの前歯の裏に収まっているのではなく、下あごの前歯のほうに落ちてしまう。落ちベロになっていないかどうかは、マスク老けのリスクを確認する重要なポイントです。

 そして、落ちベロになると口が閉じづらくなり、鼻呼吸ではなく口呼吸になりがちです。ハアハアと口で息をするので口の中が乾燥し、唾液不足になります。唾液は口の中をきれいにしてくれる天然の成分ですから、これが減ると虫歯や歯周病になりやすくなり、口臭が出ます。

 さらには、舌の衰えにより飲み込む力も弱くなって、誤嚥(ごえん)しやすくなり、誤嚥性肺炎などのリスクも高まります。加えて、口呼吸になると鼻のフィルターを通すことなく、口から肺に直接ウイルスや菌を送り込み、風邪などもひきやすい。このように、口呼吸は百害あって一利なしなのです。

 つまり、口の健康は身体の健康へとつながり、口もとの老けは身体全体の老けを招く危険性がある。したがって、口もとの老化を防ぐことは、美容面だけでなく、健康面での老化を避けるためにもとても重要になってくるのです。

 口もとを含めた顔の衰えをいかに防ぐか。そこで有効なのが「顔トレ」で、その基礎となるのが冒頭で触れたモダイオラスほぐしです。

感情を呼び起こす

 先ほども述べたように、筋肉は動かさなければ衰えます。それを意識的に動かすことが、マスク老け撃退のポイント。顔の筋トレである顔トレにはいろいろな方法がありますが、その準備運動にあたるのがモダイオラスほぐしなのです。

 モダイオラスは口角結節と言い、口輪筋、頬筋、口角挙筋など、さまざまな筋肉が集まってくるターミナル駅です。ここが硬くなると、他の表情筋も下がってしまい、ほうれい線が深くなったり、たるみが出たりするという美容面に影響します。また表情筋をあまりに使わないでいると、モダイオラスがさらに硬くなり、より表情筋を動かしにくくなるという悪循環に陥ります。これを防ぐために、舌でモダイオラスをほぐすのです。

 そのモダイオラスは、口角の内側の少し上にあります(イラスト(1)参照)。自分の口角の位置を舌で探ってみてください。頬っぺたのほうはフラットだと思うのですが、口角の少し上にちょっとふっくらと盛り上がったところがあるはずです。そこがモダイオラスです。

 ここに舌先を当て、下から上にゆっくりと左右10回ずつほぐします。ポイントは、急がずにゆっくりとほぐすこと。先ほど説明したように、舌は筋肉ですから、ゆっくり動かすことでより負荷がかかり有効です。

 また、舌を動かすことで唾液が分泌され、口内環境が良くなるとともに、表情筋もほぐれて、この後に紹介する顔トレもしやすくなります。

 こうしてモダイオラスほぐしによる準備運動を済ませた上でお勧めなのが「エモ筋トレ」(イラスト(2)参照)。普段は使っていない、感情によって動くエモーショナルな筋肉、エモ筋を鍛えるトレーニングです。

 驚いた時の表情のように、口も目も大きく開け、顔全体で「びっくり顔」を5秒キープした後、「ずるーい!」と拗(す)ねたように怒る時の感じで、口角の横に空気を溜めて「ぷんぷん顔」を5秒保つ。普段使わないエモ筋を縦横に動かすことで、顔全体の血流がアップします。

 さらに、顔トレの王様とでも言うべきエクササイズが「10秒舌回し」です(イラスト(3)参照)。モダイオラスほぐしと同じでゆっくりやるのがポイント。口角の裏側を出発点にして、舌を上の歯ぐきをなぞるように前歯、反対側の口角、下の前歯と10秒かけて一周させ、逆回転でも一周。舌先だけでなく、舌全体をゆっくりと動かすことで、ほうれい線や二重あご、そして落ちベロ防止に役立ちます。

 他には、「笑顔から口笛」の顔トレも良いと思います(イラスト(4)参照)。口角を横に開いて上げ、思い切り笑顔を作ってそのまま5秒キープする。その後に、唇を縦にすぼめて口笛を吹く。大頬骨筋、広頸筋を刺激するほか、口笛を吹くことは口輪筋のトレーニングにもなります。

 口輪筋は目の周りの筋肉である眼輪筋などとも連動しますので、口輪筋を動かさないと顔全体の筋肉の衰えにつながってしまいます。さらには、誤嚥性肺炎の引き金となる「むせ」は、口輪筋の運動不足の蓄積による筋力低下が原因であることが少なくありません。

 そして表情筋とは、まさに表情を作る筋肉であり、本来は感情によって動く筋肉です。そのため、「笑顔から口笛」の顔トレで表情筋を動かすことは、逆に、笑顔や口笛に至る感情を呼び起こす効果があります。嬉しい、楽しいといった感情です。笑顔を作り、口笛を吹くことで、筋肉が動かされるだけでなく、何となく楽しくなったり、明るい気持ちになったりと感情も動かされる。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなることってありますよね。

 ストレスフルなコロナ禍においては、ほうれい線を深くしないように美容に気を配り、口内環境を良くして、誤嚥性肺炎などを予防することで健康に気を付ける。そして顔トレによって、沈みやすく、弛緩しがちなコロナ禍の心の健康を保つ。顔トレは顔の筋肉のたるみを防ぐだけでなく、「心のたるみ」の予防にもつながるはずです。

石井さとこ(いしいさとこ)
歯科医師・口もと美容スペシャリスト。1961年生まれ。東京都出身。「ホワイトホワイト」院長。過去に、ミス・ユニバース・ジャパンのオフィシャルサプライヤーを務める。『マスクしたまま30秒!! マスク老け撃退顔トレ』『美しい口もと』の著書がある。

週刊新潮 2021年9月9日号掲載

特集「見られていないと衰える『マスク老け』を防ぐ『顔トレーニング』」より

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。