貧富の差を是正し「共同富裕」を目指すと言い出した習近平 背景に急激な人口減少?

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テンセントは貧困支援

 経済問題を協議する8月17日の共産党の会議で、習近平国家主席は「貧富の差を是正しすべての人が豊かになる『共同富裕』を目指す」と明言し、「高すぎる所得の調整」や「高所得層や企業に対して社会への還元を促す」方針を打ち出した。

 中国政府はこれまで経済成長を重視し、一部の人や地域に「先富(先に豊かになれる者からなれ)」を許してきた。だが所得格差を示す「ジニ係数」が社会不安を引き起こすおそれのある警戒ラインを大幅に上回るなど貧富の差が深刻化している。

 習氏は2017年の第19回中国共産党大会で、「党の正統性を損ないかねない格差を縮小し、国民の生活水準の改善に力を注ぐ」考えを示していたが、今やその推進に強い決意を固めたようだ。

「共同富裕」の特徴は、税や社会保険料などの通常の手段ではなく、政治的手段を使って富の再分配を図ることにある。合法的な収入であっても政府が「不合理」だと認定すれば「収奪」の対象になると懸念されている。

 中国政府は既に今年6月、業績が好調な民間企業が集積する浙江省を、「共同富裕モデル地区」に指定している。同省では、高額所得者や企業経営者に対して「公益慈善事業」への参画が奨励され、企業の寄付金などを預ける「慈善信託」の設立が始まっている。

 政府の政策に呼応する企業も現れている。インターネットサービス大手のテンセントは500億元(約8500億円)を貧困層支援などに充てる計画を公表しており、IT大手への締め付けが強まる中、他社もこの動きに追随する可能性が高い。

 また税務当局は8月25日、課税逃れをしている個人に対する調査を強化する方針を明らかにしており、「収奪」の対象は大企業から富裕層全体に拡大していく勢いだ。

「共同富裕」は裾の広い貧困層や一般市民からの支持を取り付ける上では絶大な効果を発揮するだろうが、「文化大革命」の時のように中国人同士の相互不信の構図が生まれる不安も頭をよぎる。

 社会主義市場経済を掲げる中国では国家主導で成長が続いてきたが、今後は政府が成長を阻害する要因になれば、中国経済は深刻な打撃を受けることになる。

統治の正統性を担保するとされる経済成長を犠牲にするリスクを負ってまで、なぜ中国政府は「共同富裕」を鮮明にしているのだろうか。

3人目の出産を認めるのは……

「中国の人口問題が深刻化していることがその背景にある」と筆者は考えている。

「共同富裕」の方針が示された17日は、もう一つ大きな動きがあった。

 8月20日、1組の夫婦に3人目の出産を認める人口・計画出産法改正案が、全国人民大会(全人代)常務委員会で可決、同日施行された。法案は年内にも成立する見通しである。1979年に「1人っ子政策」を導入した中国は現在、深刻な少子化に悩んでいる。2015年に「1人っ子政策」は廃止されたが、その後も少子化の流れは加速するばかりだ。

 中国政府は「2020年の人口は14.1億人に増加した」と発表しているが、ウイスコンシン大学の易富賢氏は、こう推測している。

「中国の人口統計は1億人以上水増しされており、実態は12.8億人(2020年)ほどである。2018年から人口減少が始まった」

 現実の出生率が、中国政府が前提としている1.3よりはるかに低いというのがその根拠だ。

 古来、大国は国力の源泉として人口増にこだわってきたとされているが、中国も世界第1位の人口と最大規模の人民解放軍を国の誇りにしてきた節がある。

 易氏の見方が正しいとすれば、中国は今後、経済的にも軍事的にも制約を受けることになる。「2030年前後に中国のGDPが米国を上回る」とする予測は夢と消え、国境問題で対立するインドの人口が中国を凌駕すれば、戦況は今後不利になるだろう。

 人口急減を認めれば、政府が主導してきた産児制限の失敗が露わになり、前代未聞の政治的な激震に直面するかもしれない。ソ連崩壊も人口の減少が要因だったとの指摘がある。

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