「東京リベンジャーズ」がヒットした理由 二つに分かれるヤンキー映画の登場人物

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時代劇との類似

 例えばヤンキー映画の集団での乱闘シーンである。「東京リベンジャーズ」でも東京卍會と愛美愛主の乱闘は最大の見せ場だった。一方、刑事に乱闘させるのは無理だ。自分たちが全員逮捕されてしまう。

 正義のヤンキーたちが乱闘シーンで卑劣な奴らを倒すと、スカッとする。ある種のデトックスと言える。実際にはヤンキーもヤクザも集団での乱闘などそうそうやらないだろうが、やっても不思議ではない存在なのでリアリティがある。

 世間では御法度の直接的制裁が見られるのもヤンキー映画の醍醐味。この映画にもそれが盛り込まれていた。例えば東京卍會が禁じていたケンカ賭博を開帳したメンバーのキヨマサこと清水将貴(鈴木伸之、28)を、叩きのめしたシーンだ。これも観る側を爽快な気分にした。

 実はこの構図と近いのは時代劇。賄賂を受け取ったり、女性を泣かせたりするような卑怯な役人らを、正義の侍が叩き斬る。奉行所などの手続きなどを経ないのだから、斬る側も相当問題があるのだが、観る側は全く気にしない。快哉を叫ぶ。ヤンキー映画とほとんど変わらない。

 ヤンキー社会、ヤクザ社会、あるいは江戸時代というパラレルワールドに物語を移すと、制作者側の自由度が飛躍的に高まる。観る側が内情をよく知らないので、どう作ってもリアリティが出るからだ。

 実際にはヤンキーだって相手を殺してしまうまで殴り続けることはまずないだろうし、江戸時代の侍が人を斬ることはほとんどなかった。

 150万部以上の発行部数を誇る日本一の少年漫画誌「週刊少年ジャンプ」のキーワードが「友情・努力・勝利」であるのはご存じだろう。これは同誌が考えるヒットの3条件でもある。「東京リベンジャーズ」の原作が掲載されているのはライバル誌の「週刊少年マガジン」だが、この3条件が見事に揃っていた。

 武道はドラケンの命を救うために奔走した。またマイキーがドラケンの死によって精神的に参ってしまうのも防いだ。これは当初、日向が死んでしまうという運命を変えるためだったが、やがてドラケンとマイキーに対する純粋な思いに変わった。友情だ。

 また、武道はヘタレだったが、努力によって精神的に強い男に成長した。さらには東京卍會と武道らは力を合わせて卑怯な愛美愛主に勝利した。

 ヒットの要素が詰め込まれたストーリーだったのだ。

 この映画は当初昨年10月9日に公開を予定していたが、新型コロナの感染拡大によって、今年7月9日公開になった。これは怪我の功名に違いない。

 ヤンキーもののメインターゲットは言うまでもなく10代。その夏休みと重なったのは大きい。

 また近年はヤンキーものの大型作品の制作が減ってしまい、小栗旬(38)が主演した「クローズZERO」(2007年)「クローズZEROII」(2009年)以降は数えるほどしかなかったのも影響しているはずだ。勧善懲悪の物語であるヤンキー映画の需要はいつの時代も確実にある。

 若者たちが現実のヤンキーに憧れているかというと、そうではない。警察庁の調べによると、暴走族の数は1982年の4万2510人から2019年には6073人に激減している。

 若者たちはヤンキー映画を通じて正義の実現を見たがっている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月5日掲載

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