事件現場清掃人は見た 自殺した「40代男性」の高級マンションになぜ私は住んだのか

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、自殺した40代男性の部屋に自身が住むことになった話を聞いた。

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 これまで数多くの事件現場を手掛けた高江洲氏は、自殺現場となった物件に住んだことがあるという。

「かれこれ10年ほど前の話です。横浜市内の高級マンションで、40代の男性が練炭自殺したのです」

 と語るのは、高江洲氏。

「間取りは3LDKで、120平米もありました。リビングは20畳以上、3つの部屋もみな10畳以上でした。玄関も10畳、洗面台は2台並んでいて、まるでホテルのようでした」

部屋に呼ばれている

 亡くなった男性は投資家で、FX(外国為替証拠金取引)などをやっていたという。

「最初は投資に成功していたといいます。マンションの家賃は40万円でしたから、月収は軽く100万円以上はあったでしょう。ところが、そのうち投資に行き詰まり、莫大な借金を抱え込んだそうです。男性には奥さんや子どもがいましたが、家族がいない時に、書斎で練炭自殺したのです」

 男性は死後、すぐに発見されたという。

「臭いも汚れもなかったそうです。そのため特殊清掃はせずリフォーム業者がリフォームだけ行ったわけですが、事故物件ということで次の借り手が見つかりませんでした。その物件を管理している不動産業者はもともと知り合いだったこともあり、家賃は10万円でいいから住んでくれないかと頼まれたんです」

 当時、高江洲氏は結婚したばかりだった。

「妻にそのことを話すと、『なんでわざわざ事故物件に住まなくてはいけないの』と反対されました。それでも、一応部屋を見てもらうと、彼女は、20畳以上あるリビングに感動。『この部屋に呼ばれている』と言い出したんです」

 結局、2年契約で住むことになった。

「それまで住んでいた部屋は全部で10畳ほどしかありませんでしたから、広くて住み心地は良かったですね。荷物も少なかったので、実際に使ったのはリビングと寝室、それに水回りだけです。結局事故物件といっても、全然、平気でした。もちろん、幽霊なんて出ませんし、快適に過ごしました。会社のスタッフにも事故物件に住んでもらったことがありますが、特に問題はありませんでした」

 こうした経験がきっかけとなり、高江洲氏はその後不動産業も始めた。

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