「ハコヅメ」原作漫画家・泰三子さんは元警察官 現職時代、似顔絵捜査、そしてドラマを語る

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似顔絵捜査のやり方

 作中でその才能を見出される川合と同じく、泰さんは似顔絵捜査を行っていた。似顔絵捜査とは、一体どういったものなのだろうか。

「漫画家としては、絵が物凄く下手な部類なんですが、それでも警察官の中では絵が上手い方だったので似顔絵を描くよう指示されたんです。似顔絵捜査のやり方は、供述調書を書くのと同じような感じで、相手に顔の特徴や印象を細かく質問して、聞いたままを絵に描き、微調整を繰り返しながら、相手の頭の中にある対象者に近づけていく……という感じです。手書きの似顔絵ではなく、パソコン上で、できあいのパーツ絵の中から一番似ているものを選んで組み合わせ、対象者の顔に近づけていくという手法もありました。ただこの方法は、すごく断定的というか、しっかりした絵が出来上がってしまうせいで、あまり目撃情報が集まらず、捜査員たちには不評でした。似顔絵捜査は、単に絵の技術よりも、顔の特徴を聞く時の捜査員としてのセンスや力量の方が重要だというのが、大方の考え方でした」(同)

 交番勤務をはじめ、県警で様々な仕事を経験したのち、漫画家への転身を決めた。

「当時、自分なりに考えた防犯や交通安全に関する施策がいくつかあったのですが、あと1、2個階級を上げてからじゃないと、手がつけられないものばかりでした。そうすると、退官までに自分がするべきだと思っている施策をやりきれない。でも、これってよく考えると、警察官の身分じゃなくてもできるな、という考えに至り、思い切って辞めてしまいました。他にやりたい仕事は山ほどあったので、もしも漫画家として上手くいかなくても、その時は別の道で頑張ろうと思ったんです」(同)

 退職して漫画家になることは、同僚にも告げなかったという。

「警察の仕事内容は家族にも言わないのが普通ですし、ましてや業務内容を漫画に描くというのは、情報漏洩の観点からみてもあまり歓迎されることだとは思いませんでした。理由を説明すれば、親しい同僚は分かってくれるかもしれないとも思いましたが、変に巻き込みたくなかったんです。だから、泣きながら引き留めてくれる同期生にも、理由を言わずに辞職の挨拶だけしました。今でも自分の描いたものが現場に迷惑をかけていないかということが、ものすごく気がかりです。だから、編集部に応援のメッセージや手紙をくださる読者の方々の中に、現職の警察官やOBの方も多くいらっしゃるということが、すごく嬉しいというか、ホッとします」(同)

『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』の単行本の刊行は17巻を数え、来年にはアニメ化も決定している。漫画家として、順調なキャリアを築いていくさなかにあっても、泰さんは警察官時代の同期に思いを馳せることがあるという。

「苦楽を共にした同期生のほとんどは、今も治安維持の第一線で危険と隣り合わせの中、公務にあたっています。安全な部屋で仕事をしている時、ふと遠くからパトのサイレン音が聞こえてくると、『自分だけが逃げて来てしまった』というような感覚に陥ることがあるんです」(同)

戸田恵梨香は『すげえ……』

 泰さんは、似顔絵捜査に携わっていた時期に、テレビで芸能人を見てはどんな特徴があるかを観察していたという。その時に「似顔絵にするのが難しそう」と感じたのが、ドラマで藤を演じる戸田恵梨香だった。

「若い人と美形の人は、顔の特徴を言葉で描写しづらいようで、似顔絵捜査に協力してくださる方も、具体的な顔のパーツの特徴ではなく、その人の雰囲気や印象を証言することが多かったです。その証言だけでも不思議と似た似顔絵が出来上がることもあるのですが、戸田さんは役によって顔つきや雰囲気まで変わってしまうので、似顔絵を描くのは相当難しいと思います。もし今私が、『藤を演じている戸田さん』という事前情報なしに、第三者から特徴を教えてもらいながら、手探りで戸田さんの似顔絵を描くのだとしたら、結局はいつも私が描いている漫画の藤を描くことになると思います。それだけ戸田さんは、藤というキャラクターの空気感を捉えてくださっていると思います」(同)

 人気漫画の実写化となると、原作ファンからは厳しい目が向けられることも多い中、「ハコヅメ」放送開始後には〈好きな漫画の実写化が成功して嬉しいです〉、〈キャスティングとキャラの再現性は文句無しです〉などの声が上がった。

 では、主演の2人を泰さんはどう見るのだろうか。

「『原作者視点で感じる戸田恵梨香のすごさについて』は、論文レベルで書き連ねたいので、発表できそうな学会を見つけたら、是非教えてください! ここでは溢れる気持ちを語りつくせませんが、それくらい藤を演じる戸田さんのすごさを延々語っていたいです。ドラマの藤は原作より年齢が4歳上なので、以前、脚本を拝見した時には『私がこの年齢の藤にしゃべらせるなら、別の言い方をさせるけど、せっかく原作に忠実に作ってくださっているし……』と、僅かに不安を感じたこともありました。ところが、ドラマの戸田さんを見てみると、漫画から出てきた自然な藤なんです。キャラやストーリーに対する理解力だけでなく、それを人に伝える説得力が化け物のレベルなんだろうなと思います。ただただ『すげぇ……』と、魔法を見せられているような気持ちで毎回ドラマを見ています」(同)

 川合を演じる永野芽郁については、

「永野さんについては、『天才……!』と思いながら拝見しています。私が主人公の川合を描く時は、読者に感情移入して欲しいと思うので、表情のさじ加減にいつも悩まされています。だから、一番たくさん表情を描き直すのが川合なんです。それが川合を演じる永野さんは、息をするかのように、その場面での最善で最高の表情を出してしまう。心の動きを瞳の揺らめきだけで語ってしまう永野さんの演技が特に好きなんですが、私の画力ではマネができないので、そこはすごく悔しいです」(同)

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