中央区に「月1.5万円」で住める一軒家が 銀座まで数分…都心の島・佃島の魅力とは

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木造家屋のそばにタワマン…江戸と令和の不思議な共存

 変化の波も着々と訪れている。地元が錦糸町だったので、佃には高校生の頃から、自転車で遊びに来ていた。そして、いまの仕事についてからも取材と称して、趣味がてら佃を散策した。成果をどこかに出す当てがないこともあったが、勝手に取材していたこともある。

 いまだ多く時が止まった景観を残すとはいえ、少しずつ路地の建物は建て替えられ、建売の一戸建てになったり、あるいは数軒まとめて取り壊され、オシャレなデザイナーズマンションになったりした。

 昔ながらの路地の抜けに、タワーマンションという構図をとれる「映(ば)え」な路地もあるが、そのタワーマンションも、かつての長屋や路地をまとめて再開発したものだ。夕方になると、あちらこちらから、おじいちゃんやおばあちゃんが出てきて、そこかしこに座っている。

 路地に椅子を出し、4人で井戸端会議をしているおばあさんとおじいさん。そんな路地をすり抜けて、大通り清澄通りに抜けると、目が赤く血走った、可愛い電動の移動ロボットが、道を歩いている。最近佃を拠点として、うろちょろしてるロボット、ラクロくんだ。そのラクロくんの基地らしいガラス張りの2020年的空間が、路地を出たその先に広がっていた。

 運転しなくても、自動で歩道をゆっくり走行し、目的地に連れてってくれるらしい。最近このラクロにのったIT企業勤め風の外国人が、よくタブレットを片手に、いろんな道を探検している。自動運転するための、なんらかの情報を採集しているのだろう。

 江戸と令和。木造長屋とタワーマンション、古くから住む長屋の住民とロボット。境界が意識される「島」だからこそ、際立つ対比の美はそこに確かにあるが、それでもやはり、新しく流入する何かは、歴史を駆逐してしまうのではないかと、少しだけ心配になる。

「ん? ロドリゲス?」

 路地をすり抜けて、少しだけ広い通りに出ると、クレヨンしんちゃんが描かれたトラックが停まっていた。トラックから路地に、家具を運んでいる。

「人力引越社」

 どうやら、あたらしく路地に引っ越してくる人がいるらしい。引っ越し先は、私が不動産サイトで見たような、かなり築年数のいったいわゆるレトロ長屋だ。どんな人が引っ越してくるのか、何食わぬ顔で通り過ぎるふりをして、チラ見すると、

「ん? ロドリゲス?」

 表札に書かれた新住民の名はロドリゲス。引っ越してくるのはロドリゲスさんらしい。

 この島の歴史は、新しく流入する何かに駆逐されるだけでなく、溶け込ませる魅力をまだまだ秘めている、と思われる。

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